船が船着き場に到着した。船はこういった客船としては中くらいの大きさだろうか。
 甲板が降ろされ、船員が乗船の合図を手で送るのを確認してから、私達は列に並んだまま、ゆっくりと船に乗船する。

「切符見せてくださーーい」

 船員に切符を見せ、船内にある階段を上って、室内に入る。窓から海風が突き抜けてこの時期の割には少し寒く感じる。
 窓際の席に座ってしばらくすると、間もなく船が出発する旨の船内放送が流れた。

「そろそろ出発か」

 と私は呟いた。窓から見える海面はきらきらと日の光が反射して煌めいている。
 船がゆっくりと動き出した。私は凪いだ海面をじっと見つめる。

(光さんいるかな)

 船が動き出して5分くらい経った時、遠くに黒い背びれが3つ程見えた。

「あれ、光さんかも!」

 私が沼霧さんと母親に向けて背びれを指さしながら告げる。沼霧さんが私の声と彼の背びれに呼応するかのようにおおっと声を上げた。

「確かにそれっぽいかもですね……!」

 結局背びれは次第に遠くなっていき、見えなくなったが、あれはまさしくそうだ。と自分の中で確信が出来た。

(見送ってくれたのかな)

 もしそうだとしたら、なんだか今生の別れみたいで少しだけ寂しくなったのだった。

(また戻っては来るんだけど)

 この海にはシャチ以外にも、イルカの群れがいるようで彼らの背びれも見えた。やはりイルカ達と比べたら光さんの方が大きい。

「もうじき、港に到着します」

 船内放送が流れた。私は母親に促されて、切符を再度確認して船を降りる準備をする。
 目の前には本土の港がはっきりと見え、船の動きが次第にゆっくりになった。

「到着いたしました。お忘れ物のないようにお願いいたします」

 私達はゆっくりと立ち上がり、荷物を持って下船した。

「やっぱり本土は違うわね」

 母親の呟きが耳に届く。確かに雰囲気は違う……かもしれない。
 船旅が終わると次は汽車だ。これに長い事乗って、お屋敷を目指すのだ。

「駅へ向かいましょう」

 母親の一言で、私達は歩いて駅を目指す。汽車は何度か乗り継ぎが必要なので、乗り遅れるのはかなり痛手になってしまう。
 幸い駅は港の船着き場から歩いてすぐの距離にあった。