今、私は別荘にて医者からの診察を受けている。聴診器による診察が終わると、医者はうんうんと確かめるように頷いた。

「安定していますな。実家へ戻っても大丈夫でしょう」

 という事で、一時的という条件はついたが、実家に戻る許可が降りた。

「良かった……」

 私だけでなく、母親と沼霧さんも安堵の表情を浮かべている。これは良かった。

「でも、無理はしてはなりませんよ。よろしければお父様宛に千恵子さんの病状についてのお手紙を書いて送っておきますから」

 診察も終わり医者が別荘から帰ると、ほっと安心しながら実家へ帰る計画を練る。
 まずは船に乗り、本土についたら汽車に乗って実家のお屋敷を目指す。かなりの長旅だ。

「沼霧さん。良かったらあなたも来る?」

 母親からの問いかけに、沼霧さんはよろしいのですか?と控えめに返した。

「せっかくだから来なさいな。あの人は嫌な顔しないわよ」
「ありがとうございます。では参らせて頂きます」

 沼霧さんの同行が決まったのは正直嬉しい。母親だけで長旅となると、息が詰まりそうだからだ。
 母親はあまり口数が多い人物ではないし、場合によってはぴりぴりした雰囲気を出す事もある。なので沼霧さんがいた方が気が楽になる。

 計画を練り、日が経てばあっという間に、出立の日がやって来た。
 いつもより早めの時間に沼霧さんに起こされ、麦ごはんと味噌汁をかきこみ、ささっと服を着替えたりして、支度をした。

「千恵子さん、忘れ物はありませんか?」
「大丈夫。確認した」
「千恵子、沼霧さん、行きましょう。沼霧さんその荷物持って」
「かしこまりました」

 まずは船着き場まで徒歩で移動する。船着き場には既に島民がちらほら列を作って、船が来るのを待っている。

「沼霧さん。これで切符3人分お願い」
「はい。買ってきます」

 母親に頼まれ、沼霧さんが切符を購入しにいった。空を見上げると、白い海鳥が数羽空をぐるぐる飛んでいる。

「お待たせしました」

 沼霧さんから切符を貰うと、遠目に船がやって来ているのが見えた。
 私達は列に並び、船の到着を待つ。