そんな吹雪の日からしばらく経ち、少しだけ温かな日も出始めて来たような気がする。

「千恵子さん、おはようございます」

 いつものように、沼霧さんが私を起こしにやって来た。

「おはよう、沼霧さん」
「朝食はもう準備してあります。お弁当も」

 そうだ。今日は地元の漁師さんと釣りに行く日なのだ。とは言ってもこの漁師さんもあやかし……正確に言えば人間とあやかしの間に生まれた者で、沼霧さんの知り合いなのである。

「お母さん、おはよう」
「千恵子おはよう。体調はどう?」

 温かな母親の声は変わらない。私の体調も今の所特に問題は無い。
 朝食を食べ終えて、沼霧さんからお弁当を受け取る。そして沼霧さんと私は玄関で母親に挨拶してから、家を出て漁港に歩いて向かう。

「今日はそこまで冷え込まなくて、良かったですね」
「そうだねえ」
「光さんも来るらしいですよ」
「そうなんだ、楽しみ」

 漁港の入り口に到着すると、入り口の右に漁師さんが立って出迎えてくれた。彼の名前は魚道(うおみち)と言って、背が高く若い男性の姿をしている。髪型は黒い短髪。ここ最近若い男と言えば大体坊主が多い中、この髪型はどこか珍しくて爽やかに見える。

「魚道さん、今日はよろしくお願いします」

 沼霧さんに続いて、私も彼へよろしくお願いします。と頭を下げて挨拶をする。

「こちらこそよろしくね。それにしても財閥の御令嬢が僕と漁に出るなんて初めてじゃないかな」

 私は思わずそうなんですか?と彼に聞いた。

「というか、いつも1人か光さんとするかが多いからね」

 魚道さんの笑顔も爽やかだ。これは頼りがいがある。
 早速魚道さんに連れられて船に乗り込むと、船が動き出して漁が始まる。沖合まで船を飛ばしていくと、私達を待っていたかのように、黒い背びれが3つ見えた。

「光さん、今日はよろしくね」
「おう、魚道じゃねえか。妹と甥も連れて来たぞ」

 互いに挨拶を交わした後、魚道さんは等間隔ごとにえさが付いた、長いひものような網をぽいぽいと海の中に投げ入れていく。

「千恵子さん。これでしばらく待ってたら獲物が釣れるわけだよ」
「成程……」
「今、光さん達が魚を誘導してるからしばらく休んでていいよ。沼霧さんもぜひ」

 魚道さんのお言葉に甘えて、少しばかり船の上で休憩する事にした。海は日の光を浴びてきらきらと真珠のように輝いている。

「何が取れるかなあ」

 どんな魚が取れるか、俄然楽しみになってきた。