「うぅ……」 

 この日の朝はこれまでよりも更に一段と冷えている。気づけば布団の中には、毛だらけのもふもふしたあやかしや1つ目の黒猫のあやかしが入り込んでいた。

(尻尾は燃えてるのに、他は一切燃えていない)

 そういや沼霧さん曰く、この尻尾の炎は妖力であって本物の炎では無いそうだ。だが、モノを焼く力はある。それはあのマグロの頭で証明済みだ。
 つくづくあやかしは摩訶不思議な存在である。

「あ」

 窓の向こうの空に目線がいった。空は暗く、雪が降っている。しかも風も吹いてやや吹雪気味だ。波も荒ぶっている。

(光さん今日はいなさそうだな)

 この波の状態では、桟橋でいるのは危なさそうだ。

「千恵子さーーん」
「沼霧さん、おはよう」
「千恵子さん、おはようございます」

 部屋に来た沼霧さんも、窓の向こうを見つめている。

「すごい荒れ模様ですね」
「そうだよねえ……」

 1階の居間に降り、母親にも朝の挨拶を済ませる。母親はいつも通りに新聞を読んでいる。

「朝ご飯の支度しますね」

 朝ご飯は納豆に、切り干し大根の入った味噌汁と、麦ごはんだ。

「頂きます」

 朝ご飯を食べている間も荒ぶる風の音と、叩きつけるような雪の音が絶え間なく聞こえてくる。

「これじゃあ、洗濯物は外に干せないわね……部屋に吊りましょうか」
「そうですね」
「いらない新聞紙を下に敷いたら大丈夫よね」

 からしと大根が、私の身体をじんわりと温めさせてくれている。

(今日はいつも以上に厚着をしよう)

 こういう時こそ、身体を冷やしてはいけない。しっかり外と内側から温めるのが大事だと医者が言っていたような……気がする。

「ごちそうさまでした」

 薬を飲んで食べ終えた食器を持って、流しにそれらを置き蛇口を捻る。蛇口から出る水は冷たいを通り越して痛い。

「ひい……」

 見兼ねたのか沼霧さんが、私がやりますよ。と後ろから小走りで駆けつけて来てくれた。

「ごめん……」
「いえいえ、私の仕事ですからお気になさらず」

 沼霧さんは平気な顔で、食器を洗っていった。

(すごいなあ……)