時間が経ち夕食作りに入る。鉄火丼にマグロを焼いたもの。ちなみに身だけでなく、頭も焼いてみる事になった。
 マグロの頬肉も美味しく頂けると。沼霧さんからの話である。

「じゃあ、用意していきますね」

 居間の食卓でお茶を飲んでいた沼霧さんは、そう言ってすっと立ち上がり、台所に向かって行った。

「私も何か手伝える?」
「一応鉄火丼の盛り付けはお願いします。あとは頭を焼くところとかは危ないので、居間で待ってらしてください」
「わかった」
「あ、あの黒猫連れてきてくださいますか? 1つ目の」

 沼霧さんに頼まれて、私は私の部屋でくつろいでいるあやかしを抱きかかえて台所へと連れて行った。

「ありがとうございます。この子の力を借りてみます」

 どうやらこの黒猫のあやかしの力を借りて調理するらしい。果たしてどうなるのかかが、俄然気になってきた。

(楽しみだ)

 居間で母親とゆっくりくつろいでいると、窓の向こうの空は徐々に暗くなっていくのが分かる。

「そうだ、千恵子」

 母親が何かを思い出したかのように、口を開いた。

「お母さん?」
「春頃、体長が良かったら家に戻ってみる?」
「いいの?」
「ええ。……だけど、医者の許可が下りたらね」

 弟達や父親に久しぶりに顔を見せるのも悪くない。私はぜひ行きたい。と母親に返したのだった。
 だが、距離は遠い。ここから本土までは船で、そこから更に汽車に乗る必要がある。

(医者から許可が下りればよいけど……)

 などと考えていると、沼霧さんが私を呼ぶ声が聞こえて来た。

「盛り付けお願いします」
「はいはい」

 年代ものの丼に、麦ごはんをよそい、上にしょうゆ漬けしておいたマグロの赤身を放射線状に乗せる。
 台所の隅には、良い感じに焼けたマグロの頭があった。

「出来た……!」

 さあ、他のおかずもお皿に盛ると、いよいよ夕食の時間となる。ちなみにマグロの頭は、沼霧さん曰く黒猫のあやかしが妖力を使って焼いてくれたそうだ。

「あら、良い感じじゃなぁい」

 鉄火丼を見た母親も、気分が上がったようだ。

「頂きます」

 鉄火丼は勿論美味しい!しょうゆとマグロの赤身と麦ごはんの相性はばっちりだ。
 マグロの頭を焼いたものは、沼霧さんが細かく切り分けてくれたが、これもほろほろとしていて食べやすく、とても美味しい。

「うん、どれも美味しい!」

 あっという間に全て食べてしまったのだった。しかも鉄火丼はご飯をおかわりしてしまった。

「ごちそうさまでした」