今日は朝起きてからずっと、雨が降っている。それに風も強く、凍てつくように冷たい。
 朝食は納豆と、麦ごはんにネギ入りの味噌汁。納豆には欠かさずからしを入れて頂く。

「今日は冷えるわね……」
「ヨシさん、これだけ冷えると雨が雪に変わるかもしれません」
「沼霧さん。洗濯干すなら家の中にお願い」
「畏まりました」

 朝食を食べ終えて薬を飲み、食器を片付ける。

「冷たっ」

 流しの蛇口から出る水は一段と冷たい。手がかじかむのが一瞬で分かる。

「沼霧さん冷たく無い?」
「慣れてしまえばそれほどでも無いですよ」
「うっそだあ」

 おそらく経験と言うのもあるかもしれない。あかぎれも出来てなさそうだし、あやかしというのもあるのだろう。
 片付けを終わらせると、母親と沼霧さんは配給品を貰いに出かけて行った。家には私とあやかし達だけとなる。

「?」

 中庭には、いつの間にか一つ目の黒猫が座っていた。黒猫の尾の先端は青い炎が燃えている。この子もあやかしのようだ。

「こっちに来なよ。寒いでしょ」

 私は中庭の扉を開いて、黒猫のあやかしを招き入れた。黒猫のあやかしはすたすたと尾を上げながら廊下を歩くと居間の食卓の下に入り込み、丸くなった。

「ゆっくりしていって」

 そう言うと、黒猫のしっぽが左右に揺れた。炎が灯っているが床に触れても床が燃える事は無かった。

「ただいまーー」

 母親と沼霧さんが戻ってきた。腕一杯に配給品に父親からの仕送りも持っている。私はそれらを受け取り2人と共に仕分けしていく。
 すると紙袋の中にみかんが何個か入っていた。

「みかん?」
「千恵子も食べる?」
「うん」

 母親も沼霧さんも頂くようだ。丁度小腹が空いたし、頂くとしよう。

「あ、こんなとこに」

 母親が食卓の下で丸くなっている黒猫のあやかしを見つけた。私は中庭にいたのを中に入れてあげたというと、どうやら今日の深夜くらいからあの中庭にいたのだという。

「入れてあげたのね。寒いしそれが良いと思うわ」
「うん。ここなら大丈夫だよね」

 黒猫のあやかしがにゃーんと鳴いた。私達は食卓にてみかんの皮を剥いて食べていく。
 みかんはちょっと小さめだが皮が剥きやすく、みずみずしくて味も程よく酸っぱくて美味しい。

「美味しいね」
「でも食べ過ぎたらお昼入らなくなるわよ?」

 みかんは1つだけに我慢しておく事にした。