「ユウワさん……!」
「マジか」
もう言葉にした以上それを撤回する事は出来ない。後方からは感極まった声と少し驚きの声が背中にかかる。
「勇者だぁ? 何をふざけた事を……」
「僕は本気です。彼女が僕を勇者だと思ってくれている限り、その期待に応えたい。例え霊だろうと、彼女に危害を加えるなら戦います。それが僕の答えです」
これは未練の解決のためだけじゃない僕の意志だ。
コノはお姫様ではないし、僕も勇者と名乗るほどの人間でもない。だからこれは幼稚な真似事でしかないのだと思う。それでも、コノの純粋な想いに触発されて、自分も勇者になりたいと言えた。
もし神様が聞いていたら怒られてしまうだろうけど、この選択肢を選んだ。
「そうかよ」
リーダーは感情を失ったように無表情となって、吐き捨てた。
「勇者だとか言っているが、俺らからしたらテメェは死神だ。目的を果たすまでは魂を奪われる訳にはいかねぇ」
「死神……」
そんな事をはっきりと言われ、心臓が少し冷えた。けれど、彼から見たらその表現になるのだと冷静に理解できるけど、どうしてもショックはあって。
「話は終りだ、後は拳でやり合うだけ。そうだろ?」
「そう……ですね」
彼は一気に臨戦態勢になって、僕を捉えて離さない。それに応じてこちらもロストソードを強く握った。
「ユウワ、オレも援護する。思い切り戦え」
「が、頑張ってください」
「奴如きおぬしの相手ではあるまい」
三人からそれぞれ応援を貰って、僕は剣先を自分に向けて突き刺した。
「ギュララさん、力借ります!」
「ぶっ潰す!」
全身にギュララさんのパワーで満ちて、身体の一部もデスベアーのような姿に変化した。
「おらぁぁぁ!」
それを終えた瞬間には、リーダーがすでに間合いを詰めていた。鋭い右手にある爪が首に向かって飛んでくる。
「見えた……はぁぁぁ!」
「ぐぉっ」
ギリギリまで引きつけ、最小限の動きで回避。がら空きになった側面にストレートに拳をぶつけた。浅い手応えと共に銀色の身体を後方に吹き飛ばす。
「バーニング!」
「スパーク!」
リーダーが態勢を立て直そうする隙を逃さず、ホノカとオボロさんの呪文が放たれる。
「がぁぁぁぁ」
連続火球が焼き尽くし、青白い稲妻が切り裂いて、苦悶の絶叫を上げて倒れ込む。
「や、やってくれるじゃねぇか……だが、こんなんじゃ終わらねぇ!」
死に物狂いに接近してくる。その殺意と己を顧みない勢いに少なからず気圧されてしまう。
「シルバークロォォォォ!」
「止めるっ」
「なぁ――」
銀色に輝く爪は僕の身体に辿り着くことはなかった。その前に腕を掴んで、抵抗されるも今の僕の力に敵うはずもなくて。
「とりゃぁぁぁぁ!」
「ぬぐぉ!」
ハンマー投げのようにぐるぐると回転して振り回し、軽々投げ飛ばした。リーダーは人形のように宙を舞った。
「フレイム!」
「サンダー!」
受け身も取れず地面に叩きつけられた直後に、追撃の炎と雷の魔法が浴びせられる。先程よりも威力は低いものの、クリティカルにヒットした。
「がぁ……はぁ……はぁ」
ふらふらと立ち上がる。ダメージが入っているのかリーダーの身体はさっきよりも薄くなっていて、身体の節々が黒くなっていた。
「諦めろ、オレ達には勝てねぇよ」
「黙れ、この程度で折れるかよ!」
「勝機があるようには思えぬがな」
「……くくっ。それはどうかな?」
リーダーは不敵に笑う。彼の瞳には燃えるような強い光があって、ただの強がりには思えなくて。
「ユウワさん、気をつけてください」
「う、うん」
何をしてくるかわからない。僕は相手の動きをしっかりと観察し続けた。
「そろそろ……か」
「……っ。まさか」
「終わりの始まりだ!」
一瞬、彼の表情に寂寥の影が滲んだ。そして、どこか震え声混じりに叫ぶと徐々に闇に侵食されるように身体が変化していって。
「やべぇ。……バーニング!」
「スパーク!」
ホノカとオボロさんが、急速に魔法を唱えて発動。すでに下半身が黒に染まって、動かないでいるリーダーに中程度の雷と大量の火球が襲いかかった。
「……」
「やったか!?」
「それ、フラグ……」
ホノカが死亡フラグだけでなく、また新たなフラグも立ててくる。
「み、見てください」
「……まじかよ」
魔法の連撃が終わって、リーダーの姿が見えてくる。
「アアアァァ……」
そこには、もうあの銀色の毛皮は跡形もなく漆黒に包まれていた。まるで影が立体化したような姿でいて、黒と紫が混じったおぞましい色合いでいる。完全にフラグを回収してしまった。
「やっぱりだ」
「くそっ、完全に倒したと思ったのに!」
「オオオオォ」
「勝機とは亡霊化であったか。愚かな真似を……」
もう言葉を喋ることはなく、苦悶に満ちた呻き声を上げるだけで。
「……バーニングじゃ駄目なら」
「オオォォォ」
まだ動かないで突っ立っている亡霊に向けて、再度魔法を放つ準備をしだす。
「炎カ獄ラシ絶レヤガ煉シヨイ熱リ灼ス……」
僕の後方から長々とした呪文を唱える。更にはその威力のせいか発動前でも空気が振動して、不思議な感覚がビリビリと肌に伝わって。
「インフェルノぉぉぉぉ!」
空気を破るような叫びと共に紅の巨大な火球が地面を抉り、着弾。亡霊の身体を飲み込み、そして大爆発した。
「はぁ、はぁ、これならどうだ?」
今回ホノカはフラグを立てる事はせず、心配そうに亡霊の方を見る。
砂埃が収まり視界がはっきりして結果が映し出される。そこには床で伏している亡霊がいて。
「おいおい、マジかよ……」
「嘘でしょ……」
ふらふらと気だるげな様子で立ち上がった。そして、その顔の部分をこちらに向ける。それは恐らくホノカの方のようで。
「アアアァァァ!」
「こっちに……」
「ホノカ、下がって!」
亡霊は仇敵を見つけたような雄叫びを上げ、突然走り出しホノカに向けて跳躍。爪を紫の混じった銀色に鈍く輝かせてる。
「はぁぁぁぁ」
着地点に割り込み右手に力を溜める。殺人的な爪は赤黒く染まり周囲の空気を揺らすエネルギーが溜まっていく。
「デスクロー!」
二色の爪が正面衝突。激しい光と衝撃に包まれる。
「つ、強い……」
「アアアア!」
「うぅ……」
半亡霊の時とはパワーが桁違いに違う。ギュララさんの力を借りてもほぼ互角。押し負けないよう何とか踏ん張る。
「ユウワさん!」
「っ」
「オオォ?」
コノの声を背に受けて、デスクローの出力を上げる。徐々に技のぶつけ合いの均衡が破れて。
「う、うおぉぉぉ!」
デスクローが上回った。亡霊の攻撃を弾き返して、宙を舞った亡霊は受け身も取らず地面に叩きつけられた。
「ぐっ……ぜぇ……ぜぇ」
「だ、大丈夫ですか!」
技を終えた瞬間に、何時間も走ったような疲労感が一気に押し寄せてきて、思わず片膝をついてしまう。不安そうなコノが近寄って顔を覗き込んでくる。
「まだ、いける。それより……」
仰向けに倒れていた亡霊は何事もなかったかのように起き上がった。表面上には変化は見られない。
「そう簡単にはいかないようだ」
「あれが亡霊の力ってことかよ」
「そんな」
オボロさんは冷静ではあるものの、その声はどこか張り詰めていて。ホノカも焦燥と圧倒された様子でいる。
「アアアア」
「……まずい」
最大火力が大したダメージにならない。その現実と疲れで足元が揺らぐ。そんな僕を嘲笑うように亡霊は脱力したような姿勢でこちらに顔を向けてきた。
「マジか」
もう言葉にした以上それを撤回する事は出来ない。後方からは感極まった声と少し驚きの声が背中にかかる。
「勇者だぁ? 何をふざけた事を……」
「僕は本気です。彼女が僕を勇者だと思ってくれている限り、その期待に応えたい。例え霊だろうと、彼女に危害を加えるなら戦います。それが僕の答えです」
これは未練の解決のためだけじゃない僕の意志だ。
コノはお姫様ではないし、僕も勇者と名乗るほどの人間でもない。だからこれは幼稚な真似事でしかないのだと思う。それでも、コノの純粋な想いに触発されて、自分も勇者になりたいと言えた。
もし神様が聞いていたら怒られてしまうだろうけど、この選択肢を選んだ。
「そうかよ」
リーダーは感情を失ったように無表情となって、吐き捨てた。
「勇者だとか言っているが、俺らからしたらテメェは死神だ。目的を果たすまでは魂を奪われる訳にはいかねぇ」
「死神……」
そんな事をはっきりと言われ、心臓が少し冷えた。けれど、彼から見たらその表現になるのだと冷静に理解できるけど、どうしてもショックはあって。
「話は終りだ、後は拳でやり合うだけ。そうだろ?」
「そう……ですね」
彼は一気に臨戦態勢になって、僕を捉えて離さない。それに応じてこちらもロストソードを強く握った。
「ユウワ、オレも援護する。思い切り戦え」
「が、頑張ってください」
「奴如きおぬしの相手ではあるまい」
三人からそれぞれ応援を貰って、僕は剣先を自分に向けて突き刺した。
「ギュララさん、力借ります!」
「ぶっ潰す!」
全身にギュララさんのパワーで満ちて、身体の一部もデスベアーのような姿に変化した。
「おらぁぁぁ!」
それを終えた瞬間には、リーダーがすでに間合いを詰めていた。鋭い右手にある爪が首に向かって飛んでくる。
「見えた……はぁぁぁ!」
「ぐぉっ」
ギリギリまで引きつけ、最小限の動きで回避。がら空きになった側面にストレートに拳をぶつけた。浅い手応えと共に銀色の身体を後方に吹き飛ばす。
「バーニング!」
「スパーク!」
リーダーが態勢を立て直そうする隙を逃さず、ホノカとオボロさんの呪文が放たれる。
「がぁぁぁぁ」
連続火球が焼き尽くし、青白い稲妻が切り裂いて、苦悶の絶叫を上げて倒れ込む。
「や、やってくれるじゃねぇか……だが、こんなんじゃ終わらねぇ!」
死に物狂いに接近してくる。その殺意と己を顧みない勢いに少なからず気圧されてしまう。
「シルバークロォォォォ!」
「止めるっ」
「なぁ――」
銀色に輝く爪は僕の身体に辿り着くことはなかった。その前に腕を掴んで、抵抗されるも今の僕の力に敵うはずもなくて。
「とりゃぁぁぁぁ!」
「ぬぐぉ!」
ハンマー投げのようにぐるぐると回転して振り回し、軽々投げ飛ばした。リーダーは人形のように宙を舞った。
「フレイム!」
「サンダー!」
受け身も取れず地面に叩きつけられた直後に、追撃の炎と雷の魔法が浴びせられる。先程よりも威力は低いものの、クリティカルにヒットした。
「がぁ……はぁ……はぁ」
ふらふらと立ち上がる。ダメージが入っているのかリーダーの身体はさっきよりも薄くなっていて、身体の節々が黒くなっていた。
「諦めろ、オレ達には勝てねぇよ」
「黙れ、この程度で折れるかよ!」
「勝機があるようには思えぬがな」
「……くくっ。それはどうかな?」
リーダーは不敵に笑う。彼の瞳には燃えるような強い光があって、ただの強がりには思えなくて。
「ユウワさん、気をつけてください」
「う、うん」
何をしてくるかわからない。僕は相手の動きをしっかりと観察し続けた。
「そろそろ……か」
「……っ。まさか」
「終わりの始まりだ!」
一瞬、彼の表情に寂寥の影が滲んだ。そして、どこか震え声混じりに叫ぶと徐々に闇に侵食されるように身体が変化していって。
「やべぇ。……バーニング!」
「スパーク!」
ホノカとオボロさんが、急速に魔法を唱えて発動。すでに下半身が黒に染まって、動かないでいるリーダーに中程度の雷と大量の火球が襲いかかった。
「……」
「やったか!?」
「それ、フラグ……」
ホノカが死亡フラグだけでなく、また新たなフラグも立ててくる。
「み、見てください」
「……まじかよ」
魔法の連撃が終わって、リーダーの姿が見えてくる。
「アアアァァ……」
そこには、もうあの銀色の毛皮は跡形もなく漆黒に包まれていた。まるで影が立体化したような姿でいて、黒と紫が混じったおぞましい色合いでいる。完全にフラグを回収してしまった。
「やっぱりだ」
「くそっ、完全に倒したと思ったのに!」
「オオオオォ」
「勝機とは亡霊化であったか。愚かな真似を……」
もう言葉を喋ることはなく、苦悶に満ちた呻き声を上げるだけで。
「……バーニングじゃ駄目なら」
「オオォォォ」
まだ動かないで突っ立っている亡霊に向けて、再度魔法を放つ準備をしだす。
「炎カ獄ラシ絶レヤガ煉シヨイ熱リ灼ス……」
僕の後方から長々とした呪文を唱える。更にはその威力のせいか発動前でも空気が振動して、不思議な感覚がビリビリと肌に伝わって。
「インフェルノぉぉぉぉ!」
空気を破るような叫びと共に紅の巨大な火球が地面を抉り、着弾。亡霊の身体を飲み込み、そして大爆発した。
「はぁ、はぁ、これならどうだ?」
今回ホノカはフラグを立てる事はせず、心配そうに亡霊の方を見る。
砂埃が収まり視界がはっきりして結果が映し出される。そこには床で伏している亡霊がいて。
「おいおい、マジかよ……」
「嘘でしょ……」
ふらふらと気だるげな様子で立ち上がった。そして、その顔の部分をこちらに向ける。それは恐らくホノカの方のようで。
「アアアァァァ!」
「こっちに……」
「ホノカ、下がって!」
亡霊は仇敵を見つけたような雄叫びを上げ、突然走り出しホノカに向けて跳躍。爪を紫の混じった銀色に鈍く輝かせてる。
「はぁぁぁぁ」
着地点に割り込み右手に力を溜める。殺人的な爪は赤黒く染まり周囲の空気を揺らすエネルギーが溜まっていく。
「デスクロー!」
二色の爪が正面衝突。激しい光と衝撃に包まれる。
「つ、強い……」
「アアアア!」
「うぅ……」
半亡霊の時とはパワーが桁違いに違う。ギュララさんの力を借りてもほぼ互角。押し負けないよう何とか踏ん張る。
「ユウワさん!」
「っ」
「オオォ?」
コノの声を背に受けて、デスクローの出力を上げる。徐々に技のぶつけ合いの均衡が破れて。
「う、うおぉぉぉ!」
デスクローが上回った。亡霊の攻撃を弾き返して、宙を舞った亡霊は受け身も取らず地面に叩きつけられた。
「ぐっ……ぜぇ……ぜぇ」
「だ、大丈夫ですか!」
技を終えた瞬間に、何時間も走ったような疲労感が一気に押し寄せてきて、思わず片膝をついてしまう。不安そうなコノが近寄って顔を覗き込んでくる。
「まだ、いける。それより……」
仰向けに倒れていた亡霊は何事もなかったかのように起き上がった。表面上には変化は見られない。
「そう簡単にはいかないようだ」
「あれが亡霊の力ってことかよ」
「そんな」
オボロさんは冷静ではあるものの、その声はどこか張り詰めていて。ホノカも焦燥と圧倒された様子でいる。
「アアアア」
「……まずい」
最大火力が大したダメージにならない。その現実と疲れで足元が揺らぐ。そんな僕を嘲笑うように亡霊は脱力したような姿勢でこちらに顔を向けてきた。