その発生した光が収まり、何度か瞬きをした後に状況が見えてきた。それを認識した瞬間に、その光景に目を疑ってしまう。
 泉付近にいるコノ達の周囲には地面に倒れ込んでいる人がいて、それらは全員ウルフェンだった。一人を覗いて全てが、ロストソードで斬られた後のように、身体が黒く薄くなっている。

「目がぁぁあ」

 その中で一番コノに近いウルフェンは、普通の状態でいるものの、両目を抑えて倒れ込んでいた。

「ユウワ、早くこっちに!」
「ああ」

 周りのウルフェンは動く気配がなく、僕は全力で走りコノ達の元に。

「まさかガチで来るとはな……バーニング!」

 ホノカは火炎球を連続で、痛みに苦しんでいるウルフェンに放った。

「ぐぉぉぉ」

 全ての球をモロに受けて後方に吹き飛ばされ、倒れ込んだ。

「皆、無事?」
「ああ、問題ない。強襲を受けたんだが、奴ら相当消耗してたみたいでさ」
「うむ、我とホノカで反撃て一掃したのだがな、リーダーだけは倒せず、コノに向かっていった。不覚だ」

 思わずコノをまじまじと見るも、怪我も見当たらなかった。ただ、ボーッとしていて心ここにあらずといった様子で。

「コノ、大丈夫?」
「はい……ユウワさんから貰ったぬいぐるみがピカーって光って守ってくれて。えと、びっくりして」
「そっか、良かったよ。目は問題ない?」
「言われた通り目を瞑りましたから、バッチリ見えてますけど……あれって?」

 どうやら念の為渡していたお守りが役に立った。アヤメさん様々だ。

「ミズアちゃん人形だよ。あれに攻撃すると凄い光で相手の視界を奪うんだ」
「イシリスにはそんなファンシーでヤバいもんが売ってるのかよ」
「売り物かは知らないんだ。作ってくれたアヤメさんに貰っただけだから」
「ほう。流石の発明ぶりであるな」

 あの日にリュックに入れておいて良かった。結果的にコノの命を救えた。ありがとう、ミズアちゃん人形。

「またテメェか……」
「っ」

 やはりほとんど傷はなく、リーダーは立ち上がり鉢巻をぎゅっと固めた。

「何度も何度も俺達の邪魔してきやがって……!」

 その瞳には憎悪に満ちた光をギラギラとさせていた。そして、ブルブルと両手を握りしめ怒りに震えている。

「ロストソードの使い手なら! 俺らの未練を晴らすのを邪魔すんじゃねぇよ!」
「……」

 喉を壊すような叫びが鼓膜を突き破り脳内に反響する。

「僕だって……本当は邪魔なんかしたくない。あなた達が求めるものを叶えたい。けど、強引なやり方に手は貸せない」

 彼らの同胞のためにという思いは理解できる。きっとマギアの力があれば、救える命は増えるのだと思う。

「あなた達の目的はマギアの本格的な導入ですよね。何度も言いますけど、力に訴えかけず話し合いませんか? それなら僕も協力できますから」
「もう遅いんだよ。俺達は祈り手を殺すためにここまでやってきたんだ。霊となった自らを犠牲にしてもな!」

 死体のように動かないウルフェン達の身体は完全に黒くなって――そうしてそれはソウルとなって、天に昇って消えていった。

「……そんな」
「あいつらの想いを無駄にはできない! 今、この瞬間に現状を変えるしかないんだよ!」

 激しい身振り手振りでその怒りを訴えかけてくる。そこには、もう引くことのできない苦しみと覚悟があって、どうやら彼の意志はもう変えられないみたいだ。

「なぁ、ロストソードの使い手。お前がそいつらを守る理由はなんだ? そんな、伝統だの歴史だのに固執し、変化できない奴らなんかにどうして肩入れする! 外から来たならわかるだろ、変えるべきだって思うだろ! 俺の未練を断ち切ってくれよ!」

 今までの凶暴さは潜めて、僕に向かってただ救いを求めた。もうなりふり構わないといった様子で。

「ユウワさん……」
「ユウワ」

 一歩前に出ると二人か、声がかかる。でもそれだけで。コノに止められると思ったけど、それはされなくて。振り返ると、コノはエメラルドの瞳を真っ直ぐ僕に向けていた。そこに不安は見えなくて。その信頼が心地よかった。

「悪いけど僕はあなたに協力できない」

 二人に送られて彼と対峙しそう告げた。

「多分、ロストソードの使い手としては失格なんだと思います。でも……僕は」

 今までの出来事を振り返るとコノ達の日々が一瞬にして駆け巡った。そしてその中にある、コノの僕に向ける期待や信頼、好意が僕の心に栄養を与えて一つの想いを芽生えさせてくれる。そうして、ここでコノを背にして向き合って、彼女に押されるように一つの想いが成長して。

(アオ……)

 そこで頭をよぎったのは僕をいつも守ってくれていたヒーロー。その存在が僕の魂を救ってくれた。彼女のようになれるかはわからない。もっと遠い場所に行ってしまったから。でも、少しでも近づきたい。
 その確かな望みが開花して、今まで重かった言葉は自分のものになった。

「僕はコノの勇者だ! だから彼女を守る!」