「ふぅ、最近じゃ一番食べたかもしんないわ」
夕食を終えて、僕達は食器を片付けてからしばらくそのまま雑談をしていた。
「すっごく満足そうだね」
「最後だし楽しまないとと思ってな。それに、ユウワがあまりにも美味しそうに食べててそれにつられた」
「……まだ納得できていないんだけど、本当にそんな顔してるかな?」
「してます、ユウワさんの食事の顔は他人を幸せにする顔をしてます!」
昔も同じように言われていたような気がするけど、最近はそう言われることはなくなっていたから、その感覚は忘却していた。
そういえば、向こうの世界でアオの事があってから、美味しさを感じることがほとんどなくなっていて、味に色がついたのはこっちに来てからで。きっと、その差からついそういう表情になるのかな。その表情筋が生きていたのは驚きだけど。
雑談を終えてから僕達は順番にお風呂に入った。いつものように僕はオボロさんにお願いして洗ってもらいお湯に浸かって、明日のために疲れを流した。
出てからは着替え終わえてからしばらく部屋で休み、ぬいぐるみを眺めていると。
「ユウワ、ちょっといいか?」
もう髪が乾いて、寝るための服に着替え終えているホノカが部屋に入ってくる。
「どうしたの?」
「今日はじいちゃんと寝ようかなって思っててさ」
「そっか、そうだよね……」
言われる前に気づくべきだった。最後なんだからそうしたいって思うのは当然のはずなのに。
自分の気の回らなさに辟易しながら、僕はリュックに荷物を入れて立ち上がる。
「悪いな。オレの部屋にユウワ用の布団を用意したからそこで寝てくれ」
「それはいいんだけど、その……いいのかな?」
直接的に言うと刺激してしまいそうで、ついものすごく曖昧になってしまった。
「いいんだ、コノハも喜ぶだろうしな」
そう肩をすくめて諦めを含んだ苦笑を浮かべる。
「それって」
「流石にわかる、コノハがお前の事を好きだってことくらい。ユウワもそれをわかってるんだろ?」
「……ごめん。実は告白も受けてて、でも今は難しいからって、先延ばしにしてて」
「こ、告白もされてたのか。でも謝る事じゃねぇよ。悔しいがわオレが勇気を出せず距離を詰められなかった結果でもあるんだ」
正直、殴られるのを覚悟していたから少しほっとしている自分がいた。けど、隠していた罪悪感は拭えなくて。複雑だ。
「それでも明日、告白するんだよね」
「もちろん。弱い自分に勝って、未練を断ち切るために。例え結果が得られなくてもな」
「ホノカ……」
「それにワンチャンあるかもしれないしな。プレゼントもあるし、僅かな可能性を信じる」
彼女は迷いがないように、紅の瞳に強い光を灯している。それはコノと良く似ていた。
「僕の立場から言うべきじゃないのかもだけど、応援してる」
「ありがとな、ユウワ」
そこで会話にピリオドを打ち、おやすみを言ってから僕はホノカの部屋に向かった。
廊下の奥の右手の扉を開ければ、少し伸びた通路があり途中のお風呂とトイレがある右の扉はスルーして、奥の扉の前に。ノックをすると、コノからの許可の声があり、開けて中へ。
「ユウワさん、久しぶりに一緒に寝られますね!」
「そ、そうだね」
部屋の構造はオボロさんの部屋と変わらないけれど、結構片付けられていて広々とした印象がある。畳の上には用意された布団が二つあり、他にはコノの荷物や本、今日買ったぬいぐるみが置かれていた。ホノカの持ち物らしいのは、彼女が買ったコノのぬいぐるみくらいしか見当たらなくて。多分、押し入れがあるのでそこに仕舞われているのかな。
僕はコノの荷物付近にリュックを置き、コノの右隣の布団の上に腰をおろした。
「でも、ホノカと寝たかったんじゃない?」
「はい、三人で寝たかったです」
「僕もいるんだね……」
「当たり前です! 二人共大好きなので!」
彼女の告白に応えていないのに、その好きに並べられてかすかに嬉しさを感じてる自分が嫌だった。
「ですけど、ホノカの気持ちは尊重しないといけませんから。大切なおじいちゃんですもん」
「だよね」
「実は四人で寝ようと提案したんですけどそれは狭くて無理って、言われちゃったりもしたんですけどね」
「それは……そうなるよね」
寝室じゃあ窮屈で眠りづらいだろう。大部屋ならいけそうだけど、無理やりそうするよりも二人きりの方がいいのだろう。
「いい提案だと思ったんですけどねー」
「あはは、欲張りすぎたね」
「えっへへ、コノは欲張りさんなのです!」
何故か子供っぽいドヤ顔をする。だけど、僕はそんなコノが好ましく思えて、眩しく感じた。
「なので……同じ布団で寝ましょー」
「え、ちょっと……」
返答を待つことなく、強引に布団の中に入ってしまう。
「入っちゃいました。ささ、ユウワさんも」
「……マジっすか」
「マジです。明かり消しますね」
光魔法が消されて部屋は暗闇に包まれた。逃さないといった感じで手首を掴まれていて、もう添い寝するしか道がなさそうで。
「一週間ぶりですね」
「……うん」
布団に入るとすでに彼女の体温で満たされていて、体を僕の方に向けているせいで右腕に柔らかいものが当たっていて、眠気が吹っ飛んでしまった。
「あの……手を繋いでもいいですか?」
「それは……ってコノ?」
暗くて薄っすらとしか見えないけど、彼女は不安そうに眉をひそめていて。僕は反対に向けようとした身体をコノの方へと向けた。
「覚悟はしていたんです……でもちょっと緊張してて」
「……」
「本当に成功させられるかとか、襲われたらどうしようとか、ホノカを安心させられるかって。頭の中がぐるぐる回っているんです」
闇の中にあるエメラルドの瞳は弱々しく揺れている。
「……大丈夫だよって軽々しく言えない。だけど、僕はコノは本当に強い子だと思うし、沢山練習してるのを知ってるよ。だから、そんな自分を信じてあげて。コノだって僕にそう言ってくれたしさ」
「ユウワさん……」
「それに、何かあれば僕が助けるから安心して。ホノカだっているし、村の皆もいるんだから」
コノの小さな手を握る。少しひんやりとしてたから、温かくなるよう少し強めに。
「……ありがとうございます、ユウワさん。すっごく心強いです」
強張っていた表情はふんわりと柔らかくなり、徐々に彼女の目がトロンとしてきた。
「それと明日のユウワさんの返事、楽しみにしてますからね」
「……う、うん。それじゃ寝ようか」
「はい。おやすみなさい」
「おやすみ、コノ」
目を瞑ったコノはしばらくすると呼吸は寝息へと変わっていった。安心しきった様子でいて、ほっとして瞼を閉じる。
「……」
僕は彼女の勇者になりたいのだろうか。確信的なものはないけど、天秤は傾き出していて。コノの不安げな顔を見た時、何とかしてあげたいそう強く思ったのがその証なのだろう。ただ、表明するにはまだ足りなくて、あと一押しが欲しかった。
夕食を終えて、僕達は食器を片付けてからしばらくそのまま雑談をしていた。
「すっごく満足そうだね」
「最後だし楽しまないとと思ってな。それに、ユウワがあまりにも美味しそうに食べててそれにつられた」
「……まだ納得できていないんだけど、本当にそんな顔してるかな?」
「してます、ユウワさんの食事の顔は他人を幸せにする顔をしてます!」
昔も同じように言われていたような気がするけど、最近はそう言われることはなくなっていたから、その感覚は忘却していた。
そういえば、向こうの世界でアオの事があってから、美味しさを感じることがほとんどなくなっていて、味に色がついたのはこっちに来てからで。きっと、その差からついそういう表情になるのかな。その表情筋が生きていたのは驚きだけど。
雑談を終えてから僕達は順番にお風呂に入った。いつものように僕はオボロさんにお願いして洗ってもらいお湯に浸かって、明日のために疲れを流した。
出てからは着替え終わえてからしばらく部屋で休み、ぬいぐるみを眺めていると。
「ユウワ、ちょっといいか?」
もう髪が乾いて、寝るための服に着替え終えているホノカが部屋に入ってくる。
「どうしたの?」
「今日はじいちゃんと寝ようかなって思っててさ」
「そっか、そうだよね……」
言われる前に気づくべきだった。最後なんだからそうしたいって思うのは当然のはずなのに。
自分の気の回らなさに辟易しながら、僕はリュックに荷物を入れて立ち上がる。
「悪いな。オレの部屋にユウワ用の布団を用意したからそこで寝てくれ」
「それはいいんだけど、その……いいのかな?」
直接的に言うと刺激してしまいそうで、ついものすごく曖昧になってしまった。
「いいんだ、コノハも喜ぶだろうしな」
そう肩をすくめて諦めを含んだ苦笑を浮かべる。
「それって」
「流石にわかる、コノハがお前の事を好きだってことくらい。ユウワもそれをわかってるんだろ?」
「……ごめん。実は告白も受けてて、でも今は難しいからって、先延ばしにしてて」
「こ、告白もされてたのか。でも謝る事じゃねぇよ。悔しいがわオレが勇気を出せず距離を詰められなかった結果でもあるんだ」
正直、殴られるのを覚悟していたから少しほっとしている自分がいた。けど、隠していた罪悪感は拭えなくて。複雑だ。
「それでも明日、告白するんだよね」
「もちろん。弱い自分に勝って、未練を断ち切るために。例え結果が得られなくてもな」
「ホノカ……」
「それにワンチャンあるかもしれないしな。プレゼントもあるし、僅かな可能性を信じる」
彼女は迷いがないように、紅の瞳に強い光を灯している。それはコノと良く似ていた。
「僕の立場から言うべきじゃないのかもだけど、応援してる」
「ありがとな、ユウワ」
そこで会話にピリオドを打ち、おやすみを言ってから僕はホノカの部屋に向かった。
廊下の奥の右手の扉を開ければ、少し伸びた通路があり途中のお風呂とトイレがある右の扉はスルーして、奥の扉の前に。ノックをすると、コノからの許可の声があり、開けて中へ。
「ユウワさん、久しぶりに一緒に寝られますね!」
「そ、そうだね」
部屋の構造はオボロさんの部屋と変わらないけれど、結構片付けられていて広々とした印象がある。畳の上には用意された布団が二つあり、他にはコノの荷物や本、今日買ったぬいぐるみが置かれていた。ホノカの持ち物らしいのは、彼女が買ったコノのぬいぐるみくらいしか見当たらなくて。多分、押し入れがあるのでそこに仕舞われているのかな。
僕はコノの荷物付近にリュックを置き、コノの右隣の布団の上に腰をおろした。
「でも、ホノカと寝たかったんじゃない?」
「はい、三人で寝たかったです」
「僕もいるんだね……」
「当たり前です! 二人共大好きなので!」
彼女の告白に応えていないのに、その好きに並べられてかすかに嬉しさを感じてる自分が嫌だった。
「ですけど、ホノカの気持ちは尊重しないといけませんから。大切なおじいちゃんですもん」
「だよね」
「実は四人で寝ようと提案したんですけどそれは狭くて無理って、言われちゃったりもしたんですけどね」
「それは……そうなるよね」
寝室じゃあ窮屈で眠りづらいだろう。大部屋ならいけそうだけど、無理やりそうするよりも二人きりの方がいいのだろう。
「いい提案だと思ったんですけどねー」
「あはは、欲張りすぎたね」
「えっへへ、コノは欲張りさんなのです!」
何故か子供っぽいドヤ顔をする。だけど、僕はそんなコノが好ましく思えて、眩しく感じた。
「なので……同じ布団で寝ましょー」
「え、ちょっと……」
返答を待つことなく、強引に布団の中に入ってしまう。
「入っちゃいました。ささ、ユウワさんも」
「……マジっすか」
「マジです。明かり消しますね」
光魔法が消されて部屋は暗闇に包まれた。逃さないといった感じで手首を掴まれていて、もう添い寝するしか道がなさそうで。
「一週間ぶりですね」
「……うん」
布団に入るとすでに彼女の体温で満たされていて、体を僕の方に向けているせいで右腕に柔らかいものが当たっていて、眠気が吹っ飛んでしまった。
「あの……手を繋いでもいいですか?」
「それは……ってコノ?」
暗くて薄っすらとしか見えないけど、彼女は不安そうに眉をひそめていて。僕は反対に向けようとした身体をコノの方へと向けた。
「覚悟はしていたんです……でもちょっと緊張してて」
「……」
「本当に成功させられるかとか、襲われたらどうしようとか、ホノカを安心させられるかって。頭の中がぐるぐる回っているんです」
闇の中にあるエメラルドの瞳は弱々しく揺れている。
「……大丈夫だよって軽々しく言えない。だけど、僕はコノは本当に強い子だと思うし、沢山練習してるのを知ってるよ。だから、そんな自分を信じてあげて。コノだって僕にそう言ってくれたしさ」
「ユウワさん……」
「それに、何かあれば僕が助けるから安心して。ホノカだっているし、村の皆もいるんだから」
コノの小さな手を握る。少しひんやりとしてたから、温かくなるよう少し強めに。
「……ありがとうございます、ユウワさん。すっごく心強いです」
強張っていた表情はふんわりと柔らかくなり、徐々に彼女の目がトロンとしてきた。
「それと明日のユウワさんの返事、楽しみにしてますからね」
「……う、うん。それじゃ寝ようか」
「はい。おやすみなさい」
「おやすみ、コノ」
目を瞑ったコノはしばらくすると呼吸は寝息へと変わっていった。安心しきった様子でいて、ほっとして瞼を閉じる。
「……」
僕は彼女の勇者になりたいのだろうか。確信的なものはないけど、天秤は傾き出していて。コノの不安げな顔を見た時、何とかしてあげたいそう強く思ったのがその証なのだろう。ただ、表明するにはまだ足りなくて、あと一押しが欲しかった。