「そういや、コノハが買ったものってなんだったんだ?」
「『勇者アカツキユウゴ』シリーズの特別編をまだ買ってなかったから、それを」
コノは、バッグからその本を取り出して見せてくれる。
「特別編って?」
「普段は冒険であったり、追手から逃げたりしてるんだけど、この本は日常を描いてるんだ。特に、勇者とお姫様の恋愛要素もいっぱいあるらしくて、我ながら買い忘れてたのがびっくり」
「恋愛……ね」
そう話しながら村の北側、村長の家の前にまで戻ってきた。
「あはは、ホノカはそういうのは興味ないもんね」
「興味はな……くはないぞ?」
「え、そうなの?」
目を丸くしてホノカを見つめる。相当意外な反応だったようで本を落としかけた。
「ずっと、どうでもいいみたいな感じじゃなかったっけ?」
「それは……何か言いづらかったというか、あんまキャラじゃない気がしたし」
ホノカは新しい一面を出そうと、照れながらも頑張っている。それを見せられると、僕は心の中で応援した。
「じゃ、じゃあさ、好きな人とかいるの?」
「いや! いな……いけど?」
好奇心に瞳を輝かせるコノに迫られ、わかりやすく動揺した声で返答する。
「何かすごーく怪しいんですけど」
「き、気のせい気のせい」
「本当かなー? 正直にコノに話してよー力になるからさー」
コノは興味津々といった感じで色々と聞き出そうとして、対するホノカはタジタジになっていて、その構図は捕食者と襲われている獲物だ。
「三人共、少しよいか?」
「じ、じいちゃん? た、助かった……」
「むー、後で教えてもらうんだから」
オボロさんが三階から魔法で降りてきた。それでコノからの質問責めが中断されて、ホノカはほっと息を吐いた。コノの方は結局聞き出せず口を尖らせている。
「何だ、悪いタイミングだったか?」
「いいやグッドタイミングだ、じいちゃん。それで何の用?」
「うむ。少し下見のため儀式の場を案内しようと思ってな。ちょうどこの時間に行われるのだ」
あらかじめ言われていたわけでもなく、僕達は顔を見合わせた。
「あそこって何もない時に行ってもいいのか? 立ち入り禁止になってるだろ」
「儀式の日意外はそうだが、村長である我の許可があれば当然オーケーだ」
「えっと僕は……」
「おぬしも来てくれ。儀式中は入れぬが、何があるかわからないから一応見ておいてくれ」
全員行くこととなり、荷物はそのままにその儀式の場所に向かうこととなった。
オボロさんを先頭に僕達は後ろを付いて歩く。家の壁沿いを進んで裏手に出ると、木々に挟まれて真っ直ぐに伸びた道があった。その前には扉があり、その前に警備をしている人がいて。
「あら、コノハじゃない。それに、ホノカちゃんにヒカゲくんも」
「お母さん!」
その人はイチョウさんで、柔らかく微笑むと手を振ってくる。
「いつもありがとうイチョウさん。儀式の場の下見をしに行こうと思ってな」
「そうだったんですね、ではどうぞお通りくださいな」
イチョウさんは、手にしていた扉の鍵を用いて開けてくれた。
「お母さん、ありがとう」
「本番に慌てないように、しっかりと見てきてね。それと、道は真っ直ぐ進んで変な方向に行かないようにね」
「し、心配し過ぎだって。子供じゃないんだから」
心配性な母親の言葉にコノは顔を赤くして抗議する。
「二人共、コノの事をよろしくね」
「はい」
「オレ達がちゃんと見てるんで、安心してください。」
「ちょっとホノカまで〜!」
そんなコノの声を最後に、僕達はイチョウさんに見送られて扉の向こうに踏み入れた。
道は言われていた通り直線で、幅は細くて二人分くらいになっている。両端のすぐそこには木々が林立しており、その先にはちょっとした柵が設置されて、奥はさらに深い森となっていた。
「ここらの奥の森には、恐ろしい魔獣がうじゃうじゃいるのだ。だから柵は越えてはならぬぞ。頑張れば乗り越えてしまうからな」
「あの、魔獣があれを飛び越えてくることってないんですか?」
高さとしては僕の背丈くらいで、高い身体能力のある魔獣には超えられそうだった。
「問題ない。村を囲う柵には魔法がかけられ結界として機能している。それによって魔獣は寄り付かない。だが、それ以外にはただの柵。当然、マギア解放隊には効果はなしだ」
「……じゃあもしかしたら儀式の当日に乗り込んでくるかも」
「可能性はあるが、付近に住まう魔獣は桁違いの強さを持っていてな、仮にここにたどり着いていても奴らでも無事に済まないだろう。己の身を顧みぬ愚か者でもない限りそのような事はしないだろう、安心しなさい」
オボロさんはそう言うが、僕は楽観視できそうになかった。前回だって彼らは危険な森を越えて村に侵入し、目的を果たそうとしていて。それに、あの必死さを見ると特攻してこない方が違和感だ。
「……でも万が一の事を考えるとコノ達が心配です」
「ふむ、おぬしの言いたいこともわかる。しかし……中に入れるには……」
「ユウワさん、大丈夫ですよ」
前を歩いていたコノが振り返ってきて、不安を感じさせない光をエメラルドの瞳に宿して、そう言ってのける。
「もしもの事があればユウワさんに大声で助けを求めますから。ホノカもいますし、すぐにやられたりもしません」
「そうだな。どんな事があってもオレがコノハを守って時間を稼ぐさ」
「……けどコノは怖くないの?」
例え助けが来ることが分かっても、命を奪いに来る存在に襲われるのは恐ろしいし、間に合う保証もない。
「怖くない、わけじゃないですけど、信じてますから。ユウワさんっていうコノの……あっ」
「コノ?」
言葉の途中で何かに気づいたように立ち止まり、口を半開きのまま僕を見つめて。
「これ……かも」
「どうしたの?」
「あ、いえ。なんでもないです。ごめんなさい、行きましょうっ」
小声で呟いた後、我に返ったようにコノは歩き出す。僕を追い越した彼女の表情はどこか晴れやかだった。
「『勇者アカツキユウゴ』シリーズの特別編をまだ買ってなかったから、それを」
コノは、バッグからその本を取り出して見せてくれる。
「特別編って?」
「普段は冒険であったり、追手から逃げたりしてるんだけど、この本は日常を描いてるんだ。特に、勇者とお姫様の恋愛要素もいっぱいあるらしくて、我ながら買い忘れてたのがびっくり」
「恋愛……ね」
そう話しながら村の北側、村長の家の前にまで戻ってきた。
「あはは、ホノカはそういうのは興味ないもんね」
「興味はな……くはないぞ?」
「え、そうなの?」
目を丸くしてホノカを見つめる。相当意外な反応だったようで本を落としかけた。
「ずっと、どうでもいいみたいな感じじゃなかったっけ?」
「それは……何か言いづらかったというか、あんまキャラじゃない気がしたし」
ホノカは新しい一面を出そうと、照れながらも頑張っている。それを見せられると、僕は心の中で応援した。
「じゃ、じゃあさ、好きな人とかいるの?」
「いや! いな……いけど?」
好奇心に瞳を輝かせるコノに迫られ、わかりやすく動揺した声で返答する。
「何かすごーく怪しいんですけど」
「き、気のせい気のせい」
「本当かなー? 正直にコノに話してよー力になるからさー」
コノは興味津々といった感じで色々と聞き出そうとして、対するホノカはタジタジになっていて、その構図は捕食者と襲われている獲物だ。
「三人共、少しよいか?」
「じ、じいちゃん? た、助かった……」
「むー、後で教えてもらうんだから」
オボロさんが三階から魔法で降りてきた。それでコノからの質問責めが中断されて、ホノカはほっと息を吐いた。コノの方は結局聞き出せず口を尖らせている。
「何だ、悪いタイミングだったか?」
「いいやグッドタイミングだ、じいちゃん。それで何の用?」
「うむ。少し下見のため儀式の場を案内しようと思ってな。ちょうどこの時間に行われるのだ」
あらかじめ言われていたわけでもなく、僕達は顔を見合わせた。
「あそこって何もない時に行ってもいいのか? 立ち入り禁止になってるだろ」
「儀式の日意外はそうだが、村長である我の許可があれば当然オーケーだ」
「えっと僕は……」
「おぬしも来てくれ。儀式中は入れぬが、何があるかわからないから一応見ておいてくれ」
全員行くこととなり、荷物はそのままにその儀式の場所に向かうこととなった。
オボロさんを先頭に僕達は後ろを付いて歩く。家の壁沿いを進んで裏手に出ると、木々に挟まれて真っ直ぐに伸びた道があった。その前には扉があり、その前に警備をしている人がいて。
「あら、コノハじゃない。それに、ホノカちゃんにヒカゲくんも」
「お母さん!」
その人はイチョウさんで、柔らかく微笑むと手を振ってくる。
「いつもありがとうイチョウさん。儀式の場の下見をしに行こうと思ってな」
「そうだったんですね、ではどうぞお通りくださいな」
イチョウさんは、手にしていた扉の鍵を用いて開けてくれた。
「お母さん、ありがとう」
「本番に慌てないように、しっかりと見てきてね。それと、道は真っ直ぐ進んで変な方向に行かないようにね」
「し、心配し過ぎだって。子供じゃないんだから」
心配性な母親の言葉にコノは顔を赤くして抗議する。
「二人共、コノの事をよろしくね」
「はい」
「オレ達がちゃんと見てるんで、安心してください。」
「ちょっとホノカまで〜!」
そんなコノの声を最後に、僕達はイチョウさんに見送られて扉の向こうに踏み入れた。
道は言われていた通り直線で、幅は細くて二人分くらいになっている。両端のすぐそこには木々が林立しており、その先にはちょっとした柵が設置されて、奥はさらに深い森となっていた。
「ここらの奥の森には、恐ろしい魔獣がうじゃうじゃいるのだ。だから柵は越えてはならぬぞ。頑張れば乗り越えてしまうからな」
「あの、魔獣があれを飛び越えてくることってないんですか?」
高さとしては僕の背丈くらいで、高い身体能力のある魔獣には超えられそうだった。
「問題ない。村を囲う柵には魔法がかけられ結界として機能している。それによって魔獣は寄り付かない。だが、それ以外にはただの柵。当然、マギア解放隊には効果はなしだ」
「……じゃあもしかしたら儀式の当日に乗り込んでくるかも」
「可能性はあるが、付近に住まう魔獣は桁違いの強さを持っていてな、仮にここにたどり着いていても奴らでも無事に済まないだろう。己の身を顧みぬ愚か者でもない限りそのような事はしないだろう、安心しなさい」
オボロさんはそう言うが、僕は楽観視できそうになかった。前回だって彼らは危険な森を越えて村に侵入し、目的を果たそうとしていて。それに、あの必死さを見ると特攻してこない方が違和感だ。
「……でも万が一の事を考えるとコノ達が心配です」
「ふむ、おぬしの言いたいこともわかる。しかし……中に入れるには……」
「ユウワさん、大丈夫ですよ」
前を歩いていたコノが振り返ってきて、不安を感じさせない光をエメラルドの瞳に宿して、そう言ってのける。
「もしもの事があればユウワさんに大声で助けを求めますから。ホノカもいますし、すぐにやられたりもしません」
「そうだな。どんな事があってもオレがコノハを守って時間を稼ぐさ」
「……けどコノは怖くないの?」
例え助けが来ることが分かっても、命を奪いに来る存在に襲われるのは恐ろしいし、間に合う保証もない。
「怖くない、わけじゃないですけど、信じてますから。ユウワさんっていうコノの……あっ」
「コノ?」
言葉の途中で何かに気づいたように立ち止まり、口を半開きのまま僕を見つめて。
「これ……かも」
「どうしたの?」
「あ、いえ。なんでもないです。ごめんなさい、行きましょうっ」
小声で呟いた後、我に返ったようにコノは歩き出す。僕を追い越した彼女の表情はどこか晴れやかだった。