「とりあえず、これを元にさらに改良していくわ。また頼む事があるかもだけどその時はまたよろしくね」
「はい」

 十体以上の優羽ぬいぐるみが生み出された末に、ようやく一つの完成形が誕生した。それは一目見れば僕と認識できるレベルにまでなっている。しかし、僕の見た目に近づくにつれて何だか微妙な気持ちになってきて、所有したいという欲もなくなっていて。逆に未完成品の方が魅力的に思えて、僕はそれらをありがたく貰ってリュックに詰めた。

「それとホノカ。明日からこのくらいの時間に来てくれれば教えてあげるから」
「ありがとうおばさん」

 僕達は店主さんにお別れを言ってさっきの場所に戻った。

「良かったねホノカ。プレゼント絶対喜ばれるよ」
「ああ! 後は普段からどうアピールするかなんだな……何をすればいいか見当はつかないが」

 確かに互いの事を知り尽くしているだろうから、改めて魅力を出すというのも難しい。

「何か長くコノに隠している事とかってないの? まだあまり知られてない一面とか見せると新鮮でいいかも」
「そんな事言っても、長く一緒にいるからなぁ。恋愛的に好きって思ってるくらいしか思いつかないな」
「好き……か。ねぇ、だったらそれを沢山表に出してみるってのはどうかな?」
「はぁ!? いやいやそれは無理だって!」

 ホノカは顔を赤くして頭を左右に振って否定する。

「他にも、今までとは反対の事をして、意外性を出すとギャップでアピールになるかも」
「無理に無理な提案すんなし! そんなの恥ずかし過ぎるだろ」

 想像したのか赤い瞳は動揺に泳ぎまくって、挙動もおかしくなってしまう。

「でも、変化を起こさないと今まで通りのままになっちゃうと思う」
「ぐっ、それはそうだが、でも理想と現実は違うというか……」
「気持ちはわかるけど……けどやれるだけやらないときっと後悔すると思う。そうなったら本当の意味で未練の解決にならないんじゃないかな」

 僕のように悔恨を残して欲しくないし、レイアちゃんやギュララさんのようにスッキリと終わらせて欲しい。

「……ううう、はぁ」

 ホノカは悩ましげに髪を無造作にかいてから、深くため息をつく。まだ熱を帯びている頬のまま彼女は僕の目を見てきて。

「が、頑張ってみるが、絶対に笑うなよ」
「もちろん」
「それと色々アドバイスとか協力してくれよ?」

 僕が力強く頷くと、照れるように微かに微笑んだ。その表情は、真新しい一面のように新鮮さを感じた。

「二人共、ちょっといいかな?」
「こ、コノハ……」

 そう覚悟を決めた瞬間にコノが駆け寄ってきてしまい、ホノカの顔は硬くなって瞳も彼女の方に固定された。

「……どうかしたの、ホノカ? コノの顔に何かついてる?」
「いや……その……コノハ、が……かかか、かわ、可愛いなってて思って……」

 あからさまに顔全体が赤に色づく。声も上ずっていて、声も徐々に小さくなっていった。

「かわっ!? ど、どどうしたのホノカ。熱でもあるの? 何か顔凄い赤いし」

 コノは心配してしまい、熱を測ろうとホノカのおでこに手を当てようと近寄る。

「待て待て! 大丈夫、さっき走ってただけだから!」
「ほ、本当? でもさっきはそんな赤くなかったような」
「気のせい気のせい。結構本気で走ってたからその疲れとか熱さとかが一気にきたのかも」

 その手から逃れようと後ろに下がりつつ制止を試みる。それでもコノは心配そうで。

「ほ、本当? もし辛かったらちゃんと言ってね。ホノカってすぐに無理するから」
「わかったから、もう気にしないでくれ」

「はーい。けど、珍しくホノカに可愛いって言われて嬉しかったな……えへへ」
 そうはにかんで無邪気に気持ちを表現されたホノカは、ダメージを喰らったように胸を抑える。

「そ、そんなことより用って?」
「そうだった、ちょっと来てほしいんだ。ユウワさんもお願いします」

 そうしてコノに連れられたのは、雑貨なんかを売っているお店だった。

「これなんだけど、ホノカに凄く似合うなって思ったんだー」

 その中から指差したのは、緑色の葉っぱの柄のヘアピンだった。

「コノはこれにしようと思ってて。色は違うけどデザインは同じでお揃いになって良くない?」

 もう一つは赤色の葉のヘアピンで、コノは緑の方をホノカに手渡した。

「いや、わかってると思うがオレはこういうのに興味は……」

 そう否定しようとしたホノカに向かって、考え直すようジェスチャーを送る。それに気づいて言葉を止めた。

「やっぱり、駄目……だよね」
「いや! よく見たらかわ、可愛いいしつけよう、かな」
「本当っ! ありがとう、ホノカ。すっごく嬉しい!」

 コノは幸せそうに声を弾ませた。よほど嬉しかったのだろう、身体も喜びを表すように動いている。

「じゃあ買おっ」
「お、おう」

 二人はそれぞれ店主さんに商品を渡してお金を取り出そうとする。

「三つまとめて買ってくれたら安くするよ」
「もう一つ……あのユウワさん欲しいものありますか?」
「僕はいいよ。お金ないし、二人のどっちかが欲しいものを買って」

「何度も命を救ってもらっているので、少しでもお礼がしたいです。だから、ユウワさんが選んでください」

 譲らないといった様子で、コノの善意を受け取らないのも悪いと思い、僕はざっと商品を眺めた。しかし、割と女の子向けな物が多くてピンとくるものは見当たらなくて。

「……これ」

 そんな中、青白い花柄のヘアピンが目に止まった。それを見た瞬間に、アオが付けている姿が浮かんだ。

「お、お前もつけるのか?」
「いや、あげたい人がいて。人に買ってもらったものを渡すのはどうかと思うけど……欲しくて」

 こういう事になるならアオかアヤメさんにお願いして少しでも貰っておくんだった。

「大丈夫ですよ、コノのお金を自分のお金だって思ってください。それなら気にならないですよね。それに、欲しいものがあればいつでも言ってください、買いますから」
「あ、ありがとう」

 流石にそう割り切れはしないけど、おかげで罪悪感は和らいだ。

「じゃあこの三つでお願いします」
「毎度!」

 コノとホノカはお金を出して、それぞれの物を手に持った。花のヘアピンは僕の手元に。
 用が済んだため僕達はその場を後にして、帰り道を歩き出した。その間にコノは早速買ったばかりのヘアピンをつける。緑の髪の上に赤い葉ということで、目立つ上に良い感じにマッチしていた。

「ホノカもつけてみて」
「あ、ああ」
「うわぁ! 可愛い!」

 ホノカのは逆に赤い髪に緑の葉で、同じくそのヘアピンの存在が引き立たされている。そして、それをつけた事でキュートさも出て、それこそ普段とのギャップがあり印象的に映った。

「……そ、そうか?」
「うん! やっぱり似合うよ。コノ目に狂いはなかったね」
「そっか……」

 照れくさそうに頬をポリポリとかく。コノの方は、新しいホノカの姿に瞳を輝かせていた。

「こういうお揃いをやってみたかったんだー」
「……お揃いとか興味なかったけど、意外といいなこれ」
「でしょー! ねぇもっと色々なのも一緒にしようよ!」
「……ああ!」

 どうやら起こした変化は良い方向に向かったようで、僕は胸を撫で下ろした。
 二人から一旦目を離して買ってもらったヘアピンを眺める。青白い花は儚さがあり透き通るような綺麗な感じは、どこかアオみたいだなと思って。ミズアじゃなくて、速水葵に受け取ってもらえるかはわからないけど、きっと似合うんだろうなと思った。