放課後になり僕たちはそのまま特訓のために西側の遊具がある場所に訪れた。
「さて、特訓つっても何をするかな」
「うーん。まずは軽くランニングとか?」
「そうだな。そんじゃ行くか」

 僕達は丸太の付近に荷物を立てかけて走ろうと軽くアップをする。

「ええ……コノもやらなきゃ駄目だよね」
「別に嫌ならそこで待っててもいいんだぞ」
「そ、それは駄目! コノは二人の傍から離れたくないからっ」

 コノは二つの事を天秤にかけて一緒にランニングすることを決めて、僕達の真似をして身体を温めた。

「じゃあオレに付いてきてくれ」

 ホノカが先導してくれて僕とコノは隣り合って彼女の背を追った。どうやら村の中を順に回っていくらしく、まずは神木の方から北側へと向かった。ペースはコノに合わせているのかゆっくりで、割と安定した呼吸のまま走り続けられて。

「ぜぇ……ぜぇ……も、もう少し遅くはできない?」
「流石にそれは早歩きになるだろ。体力作りのためだ、頑張れ」

 コノは一生懸命にホノカのペースについて行く。そんな彼女を横目に僕は前方のホノカと軽く雑談をした。

「ホノカはいつも走ってるの?」
「ああ。身体を動かさないと気が済まないんだよオレは。それに走ると気分も良くなるしな」
「それわかるな。頭がスッキリするよね」
「ぜぇ……はぁ……はぁ……ぜぇ」

 日本にいた時はそこまで運動はしていなかったけど、最近トレーニングを始めて気持ち良さや成長をしている感覚を知った。それが、凄くモチベーションになっている。
 神木から南の方に行き、またターンして真ん中へと戻り次は東側へと走った。その間に村の人とすれ違うと皆挨拶や声をかけてくれて。
「何か温かいよね、本当に」

「まぁたまに面倒だったりするけどな」
「はは、そうかもね。けど、この雰囲気って凄く良いよ」
「うぅ……無理ぃ……キツイよー……」

 僕の住む地域は割と都会に近いところだったから、周囲の人との繋がりは希薄だった。だからか、この村の距離の近さは羨ましく映った。それについ考えてしまう、もしこういう場所だったならアオがこの世界に来ることがなかったかもしれないと。
 それから再び学び舎のある北側に訪れるとすぐに引き返し、そして西側へと最後まで足を止めずに一周し終えた。

「ふぅ~まぁまぁ走ったな」
「そうだね、このペースでも疲れるね」
「はぁ……ちょっと……なんてもん……じゃないです……けど……」

 限界といった感じで地面に座り込んで酸素を全力で吸っていた。

「良く頑張ったなコノハ」
「ぜぇ……このくらいは……何とかできたよ、えへへ」
「後は適当に特訓するから、ゆっくりしててくれ」

 少し休憩を挟んでからそれぞれトレーニングを開始した。僕はロストソードを素振りしたり、戦闘のイメトレをしたり。ホノカは丸太の的に魔法を当てたり、空飛ぶ魔法で丸太の上を軽やかに飛び乗っていた。

「なぁヒカゲ。ちょっとしたゲームやらないか?」
「ゲーム?」

 互いに一段落ついた時にホノカが二本の細い棒を持ちながらそう提案をしてくる。

「ルールは先に棒を当てた方が勝ち。お前がギュララとやったみたいな感じだ」
「……何か棒とはいえ当てるのに気が引けるんだけど」
「オレは霊でしかも半分くらい亡霊だ。その程度大したことねぇよ」

 理屈ではそうだけど気持ち的にはやっぱり遠慮したくなってくる。でも、実践的ではあるからと思い、それを受けることにした。

「よしゃ、じゃいくぞ!」
「わ、わかった」

 距離を取り相対して棒を構えた。ホノカは常に身体を動かせるよう小さくジャンプしていて、僕は向かいうつためにじっと動きを見る。

「うららぁ!」

 小さなステップで距離を詰めてくると棒を斜め上に振り上げてきた。身体に当たる前に後ろに飛び退いて回避。すぐさま反撃の一撃を放つも同じようにひらりと躱されて、また最初の状況に。

「せいやぁぁぁ」

 今度はこちらから斬りかかる。棒を振りかぶると真っ向から棒をぶつけられつばぜり合いの形に。

「つ、強い……」
「負けねぇ!」

 ただホノカのパワーの方が上回ってて、ジリジリと押し込まれてきて。そしてさらなる力が加えられると弾かれてしまい、胴体はガラ空きになってしまい。

「ほい、オレの勝ち」

 軽く棒を当てられて勝負あり。僕は呆気なく負けた。

「もう一回やろうぜ」
「うん、次は勝つよ」
「へへっ次はもっとバチバチでやるからな」

 そうして僕達は何度も棒当てゲームを繰り返した。しかし、それは結果的にワンサイドで勝つことはできなくて。

 そのままリベンジを果たすことができず時間となってしまった。

「もうすぐ暗くなるな。終わりにするか?」
「うん。明日は勝つからね」
「おう」

 神木までは一緒で、そこからホノカとは別れてコノと家路を歩いた。

「少し幻滅させちゃったかな。あんまり強くなくて」

 ロストソードを用いていないとは言え、一度も勝てなかったのだからそう思われても仕方ないだろう。

「そんな事ありません。コノを救ってくれたあの時のことは勇者様のようだったのは変わらないです。それに、ヒカゲさんを知っていって強さだけじゃない魅力だってあるんです。何なら強くなろうと頑張ろうとしている姿が素敵でした」

 真正面からそう褒められると、とてもくすぐったかった。

「そっか……」
「えっへへ照れてるヒカゲさんも最高です!」
「も、もう止めて……」

 やはりまだ彼女の好意に対しての耐性はついていなかった。頬も熱くてそんな表情をあまり見られたくなく両手で隠す。

「ふふっ」
「……」

 家に戻るまで生暖かい視線を送られ続けて、それのせいで火照りに燃料を投下されたように冷めることはなかった。