「嘘って……皆さんもご存知だったのですか?」

 振り返ってアオ達にも確認を取る。当然、三人共コクリと頷いて肯定した。

「はぁ、そうだったんですね……」

 力が抜けたようにクママさんは座り込んでしまう。

「作戦を考えたのはあたしなの。未練解決のためとはいえ、悪かったわ」
「いえ謝らないでください。それよりもギュララが悪い事をしていなくてホッとしているのです。それに、おかげで一歩を踏み出せた気がしたので」

 桃奈さんの謝罪に彼は安心させるように微笑を浮かべてそう返答した。

「あれ、でもヒカゲさんのその腫れって?」

 演技を終えた僕は身体を起こして、服についた砂を払った。

「これは、信憑性を上げるためにさっきギュララさんに殴ってもらったんですよ」
「そ、そこまでして……!」

 感極まった様子で言葉を詰まらせた。頬に意思が向けられると、途端にヒリヒリする痛みが復活してくる。

「それだけじゃないぜ。昨夜、そいつは俺と会話するために勝負を挑んできたんだからな」
「ギュララと勝負を!?」
「まぁそうですね。めちゃくちゃボコボコにされて死にかけましたけど……」

 桃奈さんに治して完治しているけれど、痛覚の残像はまだ多少残っている。

「命がけで僕達のために……本当にありがとうございます。あなたの頑張り、確かに受け取りました」

 ペコリとしてから頭を上げたクママさんは、引き締まった顔つきになっていて、立ち上がるとギュララさんの方に向かった。

「ねぇユウ」

 その間にアオが僕の方に駆け足で寄ってきて。

「アオ……え?」

 その勢いを殺すことなく僕に抱きついてくる。アオの身体が密着して柔らかくて温かな感触がして。その瞬間に、胸の奥がぎゅっとなって安堵感に満たされ、体温が急上昇する。

「無茶し過ぎだよ~。優しいのはユウの良いところだけど、もう少し自分を大切にして」
「……」

 それから、身体を少し離すと今度は至近距離で目をしっかりと合わせてきて。

「もうこんな無茶はしないでね」
「……わ、わかったよ」

 僕は思わず目を逸らしてそう答える。その視線の先には、負のオーラを漂わせている桃奈さんがいて、すぐにアオから距離を取った。

「本当にわかってるのかな〜?」
「もちろんだよ。そんなことよりも」

 疑わしそうなジト目から逃れたくて、僕は彼らの方を指した。そこには和やかな雰囲気で対峙している二人がいる。

「ギュララ、少し僕の話を聞いて欲しい」

 二人で少し談笑した後、互いに真剣な表情になって。

「ああ」
「……あの日、僕のせいで君を死なせる結果になってしまった。本当にごめんなさい」

 クママさんは深々と頭を下げる。その状態で謝罪の言葉を繋げた。

「昔から君に守ってもらって、ずっと甘えてしまっていた。しかも強くなるようアドバイスも受けていたのに、それを受け止めなかった。僕の弱さが君を殺したんだ……!」

 それは閉じ込めていた苦しみを吐き出すようだった。悲痛な声色に胸が締め付けられる。

「頭を上げてくれクママ」

 ギュララさんは強面の顔を穏やかに崩していた。クママさんはその声の通りに顔を上げる。

「お前が全面的に悪いんじゃない。俺はただ守ってあげればいいって、本当の意味でお前のことを考えていなかったんだ。それにどこかそんな自分に酔ってもいた」

 その言葉を聞いて反射的に過去の僕の愚行がフラッシュバックして、息が荒くなる。すぐに振り払って、呼吸を整えてアオの方をチラッと横目で見る。彼女は神妙な顔つきで眺めていて。

「だから俺も悪いんだ。お前だけ罪を背負うな。ここはお互い様ってことにしておこうぜ」
「でも……」
「それにさっきの戦いで俺に強さを証明した。それで、あの日のお前の罪も今までの罪もチャラだ。お前はもう一歩進んだ、もう過去に囚われんな」
「……ギュララ、ありがとう」

 二人は解き放たれたみたく少年のように笑い合う。わだかまりは完全に無くなっていた。

「アオ、あれって」
「二人の未練が無くなったみたいだね」

 話し終えると、突然二人を繋ぐように互いの心臓部分に紫の糸が現れる。すると、その糸の中心が切れてしまった。

「どうやら時間みたいだな」
「いつかは来るってわかっていたけど……キツイな」

 クママさんは今にも泣き出しそうだった。そんな中でも彼に想いを伝えていく。

「ギュララ……今まで守ってくれてありがとう。君がくれたこの命を大切にして、君の分まで生きるよ」
「ああ、元気でな。親友」

 対してギュララさんは終始穏和な様子でいて、別れを伝えた。

「ユウ、終わらせてあげて」
「わかった」

 僕は徐々に身体が黒に染まっていく彼の前に立ち、ロストソードを手にした。

「ユウワ、お前にも礼を言わないとな。俺達がこうして未練を断ち切れたのはお前のおかげだ、感謝する」

「僕がやりたくてやったことなので」
「ははっ。俺の最後を任せるのがお前のような強い奴で良かったよ」

 最後に瞳をギラつかせてニヤリと笑うと、亡霊となって真っ黒になってしまう。

「さようなら、ギュララさん」

 僕は、終わりを持つように立っている亡霊を横一線に斬り裂いた。すると、真っ二つになった身体は藍色のソウルになって、片方が空に昇り、もう一つは僕のロストソードに入った。

「本当にありがとう、親友」

 クママさんはソウルの行方を見えなくなるまでじっと空を瞳に映している、涙をポロポロと零しながら。

 ふと、彼以外からもすすり泣く声が聞こえて、そちらを見る。

「うぅ……ひっく……惜しい人を……亡くしたわ」
「よしよし。悲しいね、モモ」

 初めはあんなに対立していた桃奈さんが感情のダムを決壊させて、アオに慰められていた。

「ギラ……あんたの作品、最高だったわよ……」

 結局桃奈さんが誰よりも涙を流して、それが収まるまで僕達は待ち続けることになった。