林原さんのことを紹介され、ついでに桃奈さんに僕のことを好きにならない理由を告げられていると、僕達の方に近づいてくる大きな人がいた。
「あのーモモナさん」
その人はクママさんだった。おずおずといった感じで話しかけてくる。
「ちょっといいですか?」
「もちろんよ、もしかしてまた彼が戻ってきたの?」
「はい、なので会ってもう一度話そうかと」
クママさんは諦めを含めた苦笑をする。桃奈さんは遥かに高い彼を見上げて会話を続けた。
「ようやく戻ってきたのね。でも、今はミズちゃんがいないし……けど、またすぐにどっか行っちゃうかもしれないわね。うーん」
「何だか凄く辛そうにしていたのです。前回ほどではありませんでしたが、そんな姿を見るのは辛いです」
「早めにしなきゃね。半亡霊状態で人に危害を加えかねないし……でも最近暴走しがちだから、ミズちゃんがいないとなぁ……」
二人は考え込んでしまう。僕も何かアイデアを出したいけど、降って湧いてくるわけなくて。
「彼がそうしたいと言ってるなら、その意思を尊重した方がいいんじゃないか」
クールに傍観していた林原さんが低い声を発して助言する。
「……その通りだわ。それに考えても始まらないしね。そうと決まれば早速行くわよ」
「はい! ではついてきてください」
桃奈さんはその言葉を即決。その言葉は受けたクママさんは案内をすべく歩き出した。
僕達はその高い背についていく。桃奈さんはアオほど林原さんにはくっつかないものの、近い距離でいる。
「ねぇソラくん一人にしちゃっててごめんね。寂しかったでしょ」
「別に問題ない」
「やっぱりそうよね。ソラくんは孤高の強さを持っているもの!」
冷たい感じで返されるも、気にすることはなく楽しげで再び話しかける。
「じゃあ、ここら辺で変わった事は無かった? さっき珍しくグリフォドールと出くわしたのよ。そいつは逃げられてミズちゃんが追いかけてるのだけどね」
「特には無いな」
「そっか、なら良かったわ。まぁソラくんも強いから多少の出来事は心配ないものね!」
大量にボールを投げても一つしか返ってこないコミュニケーションが続いた。そんな中でも桃奈さんは幸せそうだ。
「……そんなことより、日景くんだったか。君は最近来たようだが、その大丈夫か?」
「は、はい。幼馴染のア、ミズア……さんがいるので」
彼は突如僕の方を向いてそう尋ねてくる。思わぬ気遣いに驚いてしまった。
「……ふっ。幼馴染なのにさん付けなのか?」
「なっ……ソラくんを笑わせたなんて……ぐぬぅ」
林原さんは薄く微笑んだ。桃奈さんは、頬を膨らませて恨めしそうにこちらを覗いてくる。アオの件に続いて、さらに距離が離れた気がした。
「その、普段はアオって呼んでて慣れなくてつい」
「そうか、君達は仲が良かったんだな」
「お話中すみません、着きました」
話は中断して僕達は立ち止まる。訪れたのは村の外れで周囲には建物や人の姿はほとんど無い。目の前には小屋があり、そこに目的の人物がいる。
小窓からは明かりが漏れていて、人の気配を伺わせた。
「どうやらまだいるようね」
「はい、では呼びかけてみます」
クママさんが静かにドア前に行くとコンコンと二回叩く。
「ギュララ話がしたい。ここを開けて欲しい」
「……」
その答えは無言だった。しかし、めげることなくまたドアの向こうに声を届ける。
「時間をかけてはこの村にも被害が出るかもしれない。だから、僕に謝罪させて欲しい。それからこれからの事を話したいんだ。だから――」
「言ったはずだ言葉に意味はないと」
ざらついたしゃがれた声が鋭さを持った一言で拒絶の意を示した。
「くっ……どうして話してくれないんだ!」
「……」
「悪いけど、開けさせてもらうよ」
鍵は閉まっていなかったのか、簡単にドアは開きクママさんは中に入っていく。僕らもそれに続いた。
「ギュララ」
中は至ってシンプルだった。一つの部屋には、奥にベッドがあり、その手前に四角い机と椅子が一つある。端っこに壊れた小さな椅子があり、天井にはひび割れた照明が吊られていた。
「ほう? いつもの奴らだけじゃなくまた新しいのがいるな」
ギュララさんは足を組んで椅子に座っていた。クママさんと同じく背が高そうで、熊の耳に紅の瞳を持っている。ただ顔つきは真反対、目つきが悪く強面で、どこか乱暴な雰囲気があった。グレーの半袖の服に藍色の短パンで、クママさんと近い装いでいる。
「変わらずなよなよした奴か……」
彼は僕を見ると歪に口角を上げるも、すぐに興味を失ったように目線をクママさんに移す。
「何度来ようと答えは同じだぞ。俺と戦え」
「僕は……戦えない。大切で最も頭を下げなきゃいけない君に手を上げるなんて。まずしっかりと話そう」
「ふん、心も力も弱い奴とわかり合う気は無い。消えろ」
桃奈さんの言う通りお互いに譲り合う気は一切無いようだった。
「あんた、クママさんと親友なんでしょ。どうしてわかってあげないのよ」
「そいつだって同じだろ」
「想いは言葉で伝えるものよ。殴り合っても残るのは痛みと遺恨だけでしょ」
桃奈さんは黙ってらんないといった感じで意見をぶつける。しかし響いた様子はなくて。
「言葉などいくらでも取り繕える。そんな物に価値はない」
「あんたねぇ……」
「ギュララ、どうして君はそれにこだわるんだ」
完全に意見が真っ向から対立していて、譲れる部分はなさそうだった。
僕が入り込む余地はなさそうで、同じく林原さんも無言を貫いている。
「はぁ時間の無駄のようだな……どけ」
ギュララさんは立ち上がると、入口前にいる僕達を無理やりどかして外へ。
「そうだ、あの女に伝えておけ。明るく未練を断ち切るなどというふざけた考えを捨てたなら、会話に応じてやると。それと、正気に戻してくれた礼もな」
それだけ言い残して彼は村の出口の方に去って行ってしまう。僕達に彼の足を止める言葉を持ち合わせておらず、それを見送るしかできなかった。
「あのーモモナさん」
その人はクママさんだった。おずおずといった感じで話しかけてくる。
「ちょっといいですか?」
「もちろんよ、もしかしてまた彼が戻ってきたの?」
「はい、なので会ってもう一度話そうかと」
クママさんは諦めを含めた苦笑をする。桃奈さんは遥かに高い彼を見上げて会話を続けた。
「ようやく戻ってきたのね。でも、今はミズちゃんがいないし……けど、またすぐにどっか行っちゃうかもしれないわね。うーん」
「何だか凄く辛そうにしていたのです。前回ほどではありませんでしたが、そんな姿を見るのは辛いです」
「早めにしなきゃね。半亡霊状態で人に危害を加えかねないし……でも最近暴走しがちだから、ミズちゃんがいないとなぁ……」
二人は考え込んでしまう。僕も何かアイデアを出したいけど、降って湧いてくるわけなくて。
「彼がそうしたいと言ってるなら、その意思を尊重した方がいいんじゃないか」
クールに傍観していた林原さんが低い声を発して助言する。
「……その通りだわ。それに考えても始まらないしね。そうと決まれば早速行くわよ」
「はい! ではついてきてください」
桃奈さんはその言葉を即決。その言葉は受けたクママさんは案内をすべく歩き出した。
僕達はその高い背についていく。桃奈さんはアオほど林原さんにはくっつかないものの、近い距離でいる。
「ねぇソラくん一人にしちゃっててごめんね。寂しかったでしょ」
「別に問題ない」
「やっぱりそうよね。ソラくんは孤高の強さを持っているもの!」
冷たい感じで返されるも、気にすることはなく楽しげで再び話しかける。
「じゃあ、ここら辺で変わった事は無かった? さっき珍しくグリフォドールと出くわしたのよ。そいつは逃げられてミズちゃんが追いかけてるのだけどね」
「特には無いな」
「そっか、なら良かったわ。まぁソラくんも強いから多少の出来事は心配ないものね!」
大量にボールを投げても一つしか返ってこないコミュニケーションが続いた。そんな中でも桃奈さんは幸せそうだ。
「……そんなことより、日景くんだったか。君は最近来たようだが、その大丈夫か?」
「は、はい。幼馴染のア、ミズア……さんがいるので」
彼は突如僕の方を向いてそう尋ねてくる。思わぬ気遣いに驚いてしまった。
「……ふっ。幼馴染なのにさん付けなのか?」
「なっ……ソラくんを笑わせたなんて……ぐぬぅ」
林原さんは薄く微笑んだ。桃奈さんは、頬を膨らませて恨めしそうにこちらを覗いてくる。アオの件に続いて、さらに距離が離れた気がした。
「その、普段はアオって呼んでて慣れなくてつい」
「そうか、君達は仲が良かったんだな」
「お話中すみません、着きました」
話は中断して僕達は立ち止まる。訪れたのは村の外れで周囲には建物や人の姿はほとんど無い。目の前には小屋があり、そこに目的の人物がいる。
小窓からは明かりが漏れていて、人の気配を伺わせた。
「どうやらまだいるようね」
「はい、では呼びかけてみます」
クママさんが静かにドア前に行くとコンコンと二回叩く。
「ギュララ話がしたい。ここを開けて欲しい」
「……」
その答えは無言だった。しかし、めげることなくまたドアの向こうに声を届ける。
「時間をかけてはこの村にも被害が出るかもしれない。だから、僕に謝罪させて欲しい。それからこれからの事を話したいんだ。だから――」
「言ったはずだ言葉に意味はないと」
ざらついたしゃがれた声が鋭さを持った一言で拒絶の意を示した。
「くっ……どうして話してくれないんだ!」
「……」
「悪いけど、開けさせてもらうよ」
鍵は閉まっていなかったのか、簡単にドアは開きクママさんは中に入っていく。僕らもそれに続いた。
「ギュララ」
中は至ってシンプルだった。一つの部屋には、奥にベッドがあり、その手前に四角い机と椅子が一つある。端っこに壊れた小さな椅子があり、天井にはひび割れた照明が吊られていた。
「ほう? いつもの奴らだけじゃなくまた新しいのがいるな」
ギュララさんは足を組んで椅子に座っていた。クママさんと同じく背が高そうで、熊の耳に紅の瞳を持っている。ただ顔つきは真反対、目つきが悪く強面で、どこか乱暴な雰囲気があった。グレーの半袖の服に藍色の短パンで、クママさんと近い装いでいる。
「変わらずなよなよした奴か……」
彼は僕を見ると歪に口角を上げるも、すぐに興味を失ったように目線をクママさんに移す。
「何度来ようと答えは同じだぞ。俺と戦え」
「僕は……戦えない。大切で最も頭を下げなきゃいけない君に手を上げるなんて。まずしっかりと話そう」
「ふん、心も力も弱い奴とわかり合う気は無い。消えろ」
桃奈さんの言う通りお互いに譲り合う気は一切無いようだった。
「あんた、クママさんと親友なんでしょ。どうしてわかってあげないのよ」
「そいつだって同じだろ」
「想いは言葉で伝えるものよ。殴り合っても残るのは痛みと遺恨だけでしょ」
桃奈さんは黙ってらんないといった感じで意見をぶつける。しかし響いた様子はなくて。
「言葉などいくらでも取り繕える。そんな物に価値はない」
「あんたねぇ……」
「ギュララ、どうして君はそれにこだわるんだ」
完全に意見が真っ向から対立していて、譲れる部分はなさそうだった。
僕が入り込む余地はなさそうで、同じく林原さんも無言を貫いている。
「はぁ時間の無駄のようだな……どけ」
ギュララさんは立ち上がると、入口前にいる僕達を無理やりどかして外へ。
「そうだ、あの女に伝えておけ。明るく未練を断ち切るなどというふざけた考えを捨てたなら、会話に応じてやると。それと、正気に戻してくれた礼もな」
それだけ言い残して彼は村の出口の方に去って行ってしまう。僕達に彼の足を止める言葉を持ち合わせておらず、それを見送るしかできなかった。