「あー、なんでこいつら分かんねぇんだろ」

 私はコンクール曲のフルスコア(全てのパートの楽譜が一つになった楽譜)を見ながら、髪をわしゃわしゃとかき乱す。

「なに、バリサクが要らねぇとか。こことかバリサクいなくなったら大変だろうが」

 ファゴット・バスクラ・バリサクだけが吹く裏メロを指さした。

 私はこれでも吹奏楽部の部長だ。「これでも」と自分で言う理由は、この口の悪さのせいである。
『部長』と言ったら、言葉づかいは丁寧で、誰よりも率先して仕事を引き受け、素行は部員のお手本になるような人が望ましい、と私は思っている。

 なぜ自分が部長に推薦されたのかは分からない。ほとんど自覚はない。この口の悪さのせいで部員が私を怖がっているのでは……その自覚はある。

「確かに、パーカス少ないのは分かってるんだけど。優先順位っつーのがあるんだって。バリサク抜いたら土台が崩れるっつーの」
「先輩、移動しますよ」

 パート練習をするため、後輩が私を呼びにきた。

「えっ、ああ、ちょっと遅れて行くわ。他の人に行っておいてー」
「はい、分かりました」

 私は再びフルスコアに目を落とす。

「本人もだいぶつらいようだけど、どうしたら……」

 しばらく考えてみたが思いつかないので、譜面台とクラリネットを持って練習場所に向かった。
 歩きながらある考えが思い浮かぶ。

 いっそ、部活やめたらいいんじゃね?