バリトンサックス奏者がいなくなってから、初めての合奏。最初のチューニングからサウンドは変わってしまっていた。
 違和感を覚えたらしく、顧問はもう一回チューニングをやり直させるが変わらず。

「……やりましょう。頭からお願いします」
「「「はいっ!」」」

 最初から最後までコンクール曲を吹いてみる。しかし何か物足りない。
 部長は顧問をじっと見て、「バスパートだけで合わせてみてください」とお願いした。

 ファゴット・バスクラリネット・ユーフォニアム・チューバ・コントラバスだけで、同じ音・同じリズムで吹いているところをやらせてみる。
 そこにいた皆が息を飲んだ。

 低音楽器どうしがまとまっていなかったのだ。

「やっぱりな、トランペット……!」

 部長はクラリネットを片手にスタッと立ち上がる。

「ろくにバリサクの役割も知らないで、あんなこと言うんじゃねぇよ! バリサクはな、いかにも木管らしい音のファゴットやバスクラと、金管楽器のチューバやユーフォをつなげるための楽器なんだよ!」

 顧問は小声で「そっか……そういうことか」と顧問らしからぬ呆れる言葉を吐く。

「縁の下の力持ちかもしれないけど、バリサクがいなくなったら、土台である低音が崩れるんだっつーの! これで分かっただろ!」

 体を震わす部長の荒々しい声は、下の階の職員室まで届くほどだ。

「あの子が『Bの方がうまい』って言わなかったからって、『元はサックスじゃなかったから耳が悪いんじゃね?』って罵ったあげく、『バリサクは要らない』だって? ふざけんな!!」

 はぁ、と部長はひと息つく。

「バリサクいないんじゃ金賞とれねぇし、そもそもそんなこと言うヤツらと一緒に吹きたくねぇよ!」

 この後、音楽室から楽器の音が聞こえることはなかった。