「おぉ、吹奏楽部なんですね! 何の楽器吹いてるんですか?」

 この手の質問、いつもどう答えてよいのか迷う。

「サックスです」
「サックス! かっこいい!」
「サックスって言っても、バリトンサックスなんですけどね」

 その人はとたんに表情を変え、「ば、バリトンサックス?」と聞き返されてしまった。

「みんながよく知ってるやつの、大きいバージョンです。低音楽器ですね」
「低音楽器……そう」

 吹奏楽部で低音楽器と言ったらチューバが思い浮かぶだろう。
 吹奏楽に携わっていない人からすれば『低音楽器=地味、目立たない、縁の下の力持ち』くらいにしか思っていない。実際、自分もそうだった。

「サックスをやっている」と言うとかっこいいと言われ、「バリトンサックスをやっている」と言うと、まずは楽器の説明をしなくてはならない。
 アルトサックスやテナーサックスなら一発なのに。ついついその二つとは違うと思って「バリトンサックス」と訂正してしまう。

 そんな目立たない存在のバリトンサックス。実際に吹いてみても、自分の音は金管楽器の爆音にかき消されてしまう。

「私、というよりバリサク、必要なのかな? ……必要だから要るんだろうけど」

 私は今日も首に六キロを提げて、音楽室のいつもの席に座った。