周りは受験で大変な中なので、内緒話のように小声で話して決めたこと。
すこしこそばゆいけれど、とっても楽しみになった。
しかし、このプレゼントを作る作業で私は悲しいけれど自身の症状をはっきりと自覚することになった。
前から言われていたこと、それでも最近が幸せいっぱいで、だからこそ忘れていたんだ。
私に切られた期限がもうかなり少ないんだってこと。
自宅で編み物をしていると、ちょこちょこ目が霞み、見えづらくなっていた。
疲れ目かな、なんて思っていたけれど、はたと気付く。
これは自分の病気の症状がしっかり進行しているんだってことに。
そして一気に不安が押し寄せてきた。
私はあとどれだけ周りを、彼を見ていられるだろうと。
私の症状に病名がついたのは、小学二年生のときだった。
急に下がった視力、さらにピントが合わせづらくなったので行った眼科で精密検査を受けて分かった。
【優性遺伝性視神経萎縮】
この病気はゆっくりと進行し、私ぐらいの年齢で判明すると10年後ぐらいに失明する。
原因も分からず治療法も無い。
難病指定に入る病気だった。
小学二年生でもこの病気は最終的に目が見えなくなると聞いて、どうすればいいのだろうと思った。
小学校の高学年になる頃には、いつ見えなくなるのか不安は尽きなかった。
中学生になる頃、やっとこの先の現実を受け止めて決めた。
私は恋なんてしない。
目が見えなくなる私は、その生活に慣れるまで迷惑ばかりかけるようになるだろう。
だから、とにかくその前に見たいものやりたい事は必ず挑戦してやってみようと決めた。
八歳で診断を受けた私も、およそ十年後には失明するだろうと言われていた。
その通りに、ゆっくりゆっくりと視力は低下し続け、ピントが合わず視界はぼやけていく。
なんとかコンタクトなどで補正して日々の生活を送っていた。
失明するだろうと言われた歳になる、高三の春。
まさか私が恋をする相手に出会うなんて思ってなかった。
でも、私には、知り合ってから見てきた要くんは眩しくてすごく輝いていた。
それは自分にとって相手が特別だからだと今ならわかる。
だから、私はその溢れてくる気持ちに逆らえず決めていたことを覆すことになった。
恋をしない。
そんな事、特別な人に出会ってしまえば無意味だった。
文化祭での告白も、初めてのデートもとっても楽しくて幸せで、だから気づくのが遅れたのかな……。
私の視力低下はまた、一段階進んだ。
手元に視線を合わせるのも、短時間で疲れやすくなるほどに。
それでも、私が送れる最後の手作りのものになるかもしれないと思えば、休み休み、頑張って丁寧に編んでいった。
喜んでくれるかな、気に入ってくれるかな。
似合うといいな。
そんな気持ちで編んだ帽子は今までより時間はかかったけれど、とってもいい出来に仕上がった。
それにクリスマスのカードをつける。
そしてプレゼント用に包装して、準備をした。
それが終わる頃に、私の覚悟も決まった。
私の病気のこと、もう少ししたらきっと目が見えなくなってしまうことを要くんに話そうと決めた。
それで、要くんが離れてしまうことになっても。
ここまで過ごした日々が、私を支えてくれると思えるから。
それくらい短くても、濃く過ごしてきたと思う。
ドキドキとする胸を抱えて、私は終業式でクリスマスイブの今日プレゼントを持って学校へと向かった。
終業式が済んだら夕方までデートの予定だ。
話す時間はあるだろう。
話が済むまで、この緊張を抱えるだろう事に少し息を吐きつつ、頬をはたいて気合を入れたのだった。
終業式の学校はクリスマスイブも相まって、とっても賑やかな雰囲気だ。
その雰囲気は下級生に多く、受験生の三年生はキリキリとした雰囲気もある。
この冬休みが受験のラストスパートだから、みんな必死だ。
そんな中、今日デートの私達が異質なのだろう。
それもこれも、受験が無事に済んでいる要くんが相手だからだと思うけど。
「おはよう、日菜子」
下駄箱で日菜子を見かけて声をかける。
振り返った日菜子の手には単語帳。
「おはよう、有紗。あー、もうそろそろ私の頭パンクしそう!」
部活を引退してから頑張って勉強を始めた日菜子は今学期の期末テストでは順位を大幅に上げて、模試でも志望校はB判定まで上がった。
この年末は塾と模試三昧だと言っていたので、少しやつれているのは仕方ないだろう。
「日菜子、あと少しだからファイト!」
私は励ますと、日菜子も笑顔を見せてくれた。
「うん。やりたい事は見えてきたから頑張る」
その前向きな姿はやっぱり眩しくて、少し羨ましかった。
私は黙っているけれど症状のこともあって、進学は見送ることにした。
3ヶ月毎の定期検診で今年に入ってからは視力低下の進みが早いから、ストレートでの進学を諦めた。
やりたい事の中に大学に行くこともあったので、頑張って勉強して実は大検を取っているし、このまま症状がなんとかなれば高校を卒業出来るので問題ない。
自分の症状が落ち着いてから、受験しようと思っている。
教室に着けば、蒼くんと要くんが既に登校していた。
「要くん、おはよう」
「おはよう、有紗」
クラスでは席替えをしたけれど、私と要くんはまた隣同士になっている。
だから、プレゼントもバレバレなのだけれど机の脇にそっと小さな手提げを掛けた。
「有紗、お昼なに食べたい?」
「ファミレスでいいよ」
「どのファミレス?」
「パスタが食べたい、ピザも!」
私の珍しく欲張りな感じに要くんが笑った。
「ピザはシェアなんだろ?」
「うん!」
そんな会話をしている私たちの周りは、落ち着いている人が三分の一。
推薦で進学が決まった子や就職先が決まった子は落ち着いた雰囲気でこの冬休みを迎えている。
受験組は時間を惜しむかのように勉強している姿がある。
日菜子と蒼くんはそんな感じだ。
「おー、みんなおはよう。終業式だからな。体育館へ移動しろ」
担任の三浦先生の声に移動を始める。
階段を降り外廊下へと出ると、やはり外は寒い。
コートやマフラーは置いてきちゃったから、少し寒さが身に染みる。
隣を歩いていた要くんがすっと手を出すと、私の手を取って繋いできた。
こんなに周りにたくさんの同級生がいる中で手を繋ぐのは、ビックリして恥ずかしさが込み上げて、きっと私の顔は今赤い。
そんな私を見てクスリと笑うと要くんが言った。
「寒いから、いいだろ?」
それに、私は首を振ってしか返事が出来なかった。
寒い体育館で、いつもの如く校長先生の休み中の注意を聞いて終わればみんな足早に教室へ向かう。
寒い寒いと思ったら、空から珍しくチラホラと雪が舞っているのだ。
この辺りでは雪が降るのは珍しい。
しかもこの時期に降ることは滅多にない。
「イブに雪が舞うなんて、私記憶にないよ?」
「珍しいよな、でもすぐやんじゃうだろうな」
「そうだね、一瞬のホワイトクリスマスイブだね」
帰りも寒さの中、手を繋いで私と要くんは教室へと向かった。
教室へと戻ってすぐに担任の三浦先生も来て学期末なので通信簿を出席番号順にもらう。
もらった通信簿体育以外はしっかり取れているのにホッとして、鞄にしまう。
私がしまう頃に、要くんも通信簿をもらって席に戻ってきた。
「どうだった?」
「ん。問題なかった」
その言葉にホッとしつつ、通信簿を配り終えた先生が校長先生と同じような注意事項と風邪に気をつけろよとの一言をつけてホームルームを終えた。
受験組は足早に帰宅していく。
私と要くんは少しゆっくりしていた。
「有紗、良いお年を!」
「日菜子も良いお年を」
そんな私たちと似たようなやり取りがそこかしこから聞こえつつ、みんな教室を出ていく。
私と要くんも帰り支度を済ませると、手を繋いで歩き出した。
今日は学校から最寄り駅へと歩くと電車には乗らずそのままその近辺のファミレスを目指す。
ここは市内の中心地なのでお店がたくさんある。
リーズナブルなファミレスに今日は決めて、お店に入れば店内はこの近辺の高校の制服で溢れている。
考えることはみんな同じらしい。
「早めに食べて、お店出ようか」
「そうだね、そうしよう」
私達はお互いに好きなパスタを選ぶと更にピザを一枚選んで注文した。
今日は寒さから私は季節のスープパスタ。
要くんはアラビアータ。
ピザはマルゲリータにした。
ドリンクバーをつけたので、取りに行こうとすれば要くんが止める。