次の日からも彼は言った通り、私にメールや電話をかけ続けてきた。
その内容はどれも他愛のないことばかりで、特別な内容は1つもなかった。
あの日、彼のことや思いを聞いても私の対応は相変わらずで、彼からのメールも電話も全て無視していた。
ここまでくれば、もう根気比べだ。
彼がメールや電話をかけても無視され続けて、私との関わりを諦めるか……
それとも、私がメールや電話をかけ続ける彼の想いをくみ取り、連絡を取るか……
そのどちらかだ。

そんな日々を過ごす中……私の頭の中をずっと、1つの言葉が駆け巡り続けていた。
それは……
ーーねぇ……君のやりたいことは何?ーー
あの日……屈託ない笑顔を浮かべた彼に問われた言葉。
……私のやりたいこと……。
ない。
そんなもの、あるわけがない。
はっきりと彼にもそう言ったのに……ふと、無意識のうちにやりたいことはなんだろう……と、考えている自分がいることにすごく驚く……。
どうして……?
やりたいこと……。
強いて言うなら……『死にたい……』
そう、言ったら……彼はどう思うだろう……?
彼はどんな顔をするだろう……?
哀しむ?
呆れる?
いや……以前の彼もそういう気持ちを抱いていたのだから、少なからずそう思う自分を分かってくれるだろう……。
だが……
『それが本当に君がやりたいことなの?』とも、言われてしまいそうだ……。
きっと、彼なら言うだろう。
そう言われるのは仕方ないにしろ……あの時、初めて目にした彼の真剣な瞳と雰囲気を身に纏い、問われたらどうしよう……。
嘘も誤魔化しも許さないどころか、簡単に見抜いてしまうような気がしてならなかったし、それが怖かった……。
それに彼が求める私のやりたいこととは、こういうことでない……と頭の片隅では分かっていたから……。

本当に私がやりたいことってなんだろう……?
あるのかな?
彼のメールや電話が入る続ける日々の中で、あの日から一度だって彼から聞いてこないのに、ますます考え込むことが多くなっていった……。
どうして、こんなにも1つの言葉がずっと頭の中を巡り続けているのだろう……。
彼からのメールや電話が入り続けているから?
イヤでも意識してしまっているのだろうか……?
もし、そうならば……彼からのメールや電話がなくなってしまったら……もう、彼の言葉が頭の中を巡り続けることもなくなるのでは……と、考えついた私は彼からかかってきたの電話に初めて出たーー……。

「あっ、出た。久しぶり、元気?」
ゆったりとした声と口調は間違いなく彼で、これまで電話に出たことなんて一度もなかった私が初めて電話に出てもびっくりした様子は感じられなかった。
いつも通りな彼に対して私は早口に言った。
「もういい加減にしてっ! 毎日、毎日メールと電話が入ってうんざり……。それにやりたいことなんて、やっぱりない! それじゃ」
自分の言いたいことだけ言って、電話を切った。
その日、改めて彼から電話がかかってくることはなかったーー……。