「彩葉さま、お着きになりました。」

「......わかり、ました」

声が情けなく震えてしまう。

ただでさえ、未知の場所だ。父の圧に負け、了承してしまったが、本当はとても怖いのが事実だ。

「わたくしはここの使用人ではないゆえ、ここで」

「あ、ああ。ありがとうございました」

これでもうあの家とのつながりはなくなった。

「あの、頑張ってください」

「えっ?」

後宮の門を通ろうとしていた彩葉は驚いて足を止める。

「......今頃になってこんなこと言うなんてひどいですよね。ご主人様たちと他の使用人の目が怖くて、ずっと言えなくて」

「っ.......!」

「ずっと、彩葉さまがいじめられているのを見て、私はなんで見て見ぬふりをしてるんだって苦しくなって。でも、怖くて声をかけられなくって......!」

泣きそうな表情でいう澪は本当に後悔しているようで、彩葉も心が痛む。

「許してもらえないと思いますが、ごめんなさい......!」

「っ、ありがとうございます、話してくださって」

「彩葉さまがお礼を言うことはありませんっ罵ってくださっていいのに.......」

「いいんです。私は味方がいるとわかっただけでいいんです。本当に嬉しかったです」

しゃがんでぽろぽろと涙を流し始めた澪の前に膝をついて手をとる。

「本当に、ありがとうございます」

彩葉は澪を立たせると馬車のほうへと背中を押し、自身は反対方向の後宮の門の前へと立った。

「彩葉さまっ、頑張ってください!」

「また、会いましょうね」

彩葉は応援してくれる人がいる幸せを噛み締めながら後宮の門へと入っていくのだった。


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