(なにを言ってるんでしょう、茉央さん)

幸せにしてほしいなど、思ったことのない願いだ。

しかも、もう、後宮にきて、茉央という侍女がいる時点で幸せだ。

あの家にいたときには考えられなかったことだから。


もう、幸せだ。


「私は、調べました」

誰もが黙っているなか、茉央の声だけが不自然に響く。

なにを言い出すのか。

(茉央さん、なにを調べたんでしょう?)

疑問に思っていると、茉央は彩葉を見て、悲しそうな微笑みを浮かべる。

そして、言った。



「___彩葉さまは実家で虐げられていたのです」



ざわざわっ。

宦官や陛下が驚いたように目を見開く。

(なんで、言ってしまったんでしょう。もう、私はここにいられなってしまいます……)

対して、彩葉は冷静だった。

いつか、こうなるのではないかと、予想してたがゆえのことだ。

どうみても、元とはいえ、使用人以下の扱いを受けた者が後宮妃となると、世間体が悪い。

「ほう。それは本当か?」

陛下が目を細めながら問いかける。

「はい。本当でございます」

もう、だめだ。

そう、彩葉が思ったときだった。

「___それで、幸せにとはどういうことだ?」

(咎め……られなかった?)

隠していたことに関して怒号が飛んでくるかと思っていたが、そんなことはなかったようだ。

驚いて、彩葉は目を瞬く。

「彩葉さまを、守ってほしいのです」

「守る?なにかから襲われるのか?」

彩葉は黙って成り行きを見ていることしかできない。

でも、今にでも陛下の怒号が飛んでくるのではないかとヒヤヒヤしていた。

「襲われるわけではありませんが……来週、お茶会がございまして。そこに彩葉さまの実家の者がいらっしゃるのです」

「だから、守ってほしいと?」

(お茶会?そんな話は一言も……)

首をかしげている彩葉を茉央はちらっと見た。

「私は彩葉さまのためにも、この後宮をよく見せるためにも、守っていただきたいのです」

「ほう。なるほど、守るとは具体的になにをすればよい?」

「私は彩葉さまを寵妃のように見せるべきだと思います」