彩葉は朝食を食べ終わり、何もすることがなくて、暇を持て余してしまった。
こういうときは、いつも秋穂か春華に家事を押し付けられることがほとんどなため、なにかしらやることがあるのだが、後宮ではそうはいかない。先程、茉央に掃除の手伝いを申し出たが、「それは、妃がやることではありません!」と全力で止められてしまった。
今、茉央は食器洗いをしているため、話相手もいない。
(暇なんて......贅沢な悩みですよね......。でも、なにかしてないと、逆に落ち着きません.......)
やはり、彩葉は後宮の色に染まり始めているらしい。暇などという、贅沢な悩みを持ち始めてしまった。
そんなことを長椅子にすわって悶々と考えていると、扉がノックされた。
(来客でしょうか......私に来客などないと思っていましたが)
「どうぞ、お入りください」
いつの間にか掃除から戻ってきた茉央が、扉に向かって呼びかけると、宦官と見られる男性が入ってきた。否、男性ではない。元男性と言ったほうがいいかもしれない。
「宦官の......理央さまでしょうか。なにか彩葉さまに御用が?」
こういうときは侍女が来客者に対応するのが普通だという。いつも、対応する側だった彩葉には少し不思議な感覚であるのは間違いないが。