これが、至れり尽くせりというやつだろうか。だけど___。
(わたしなんかに、こんなのもったいないと思ってしまいます。これは、逆に贅沢な悩みでしょうか)
尽くしてもらう権利なんて一つもないのに、彩葉はかなりこの状況に甘えてしまっているのが事実だ。
しかも、義理の妹の身代わりで来たというだけ。本当は妹がこうされるべき立場なのに、彩葉がたまたま身代わりになれたから、尽くされているのだ。
(そのことを忘れないで過ごさなくてはなりませんね)
今一度、自分を戒めながら、着ているものを着替えようと備え付けの棚を開くと、溢れんばかりに入った衣に驚いてしまった。
(こ、こんなにすてきな衣ばかり......よろしいのでしょうか......)
どれも自分に合う気がしない。昔から、春華や秋穂にどの衣も似合わないと言われ続けてきた。
虐げられていたとはいえ、春華や秋穂の言うことは本当だとわかっている。彩葉にはきれいな衣は似合わない。
「彩葉妃、朝食をお持ちしま......って!まだ、服を選んでないんですか?お着替えなさるように言いましたでしょう」
茉央が少し苛立ったような顔になる。口調も乱暴になっている。
春華や秋穂の虐げられていたときを思い出して、彩葉は思わず、体を震わせてしまった。
「ご、ごめんなさい、茉央さん。衣など、自分であまり選んだことがなくて......」
震えながら頭を下げると、慌てたように茉央は「顔を上げてください」と言った。