「彩葉さま、後宮にお着きになりました」



「......わかり、ました」



手が震えているからか、声も一緒に情けなく震えてしまう。


後宮なぞ、ただでさえ、未知の場所だ。冬司の圧に負け、入内を了承してしまったが、本当はとても怖くて、今にも逃げ出したくなっているのが事実だ。



「わたくしはここの使用人ではないゆえ、ここで」



澪がゆっくり、静かに、だけど、なにか言いたそうに告げてくる。



「あ、ああ、そうでしたね。えっと、今までありがとうございました、澪さん」



だれも使用人が彩葉に関わろうとしなかったなか、冷たいながらも関わってくれた澪に最後の、精一杯の感謝を伝える。



これでもう、あの家とのつながりはなくなった。



「___あの、頑張ってください、彩葉さま」



「えっ?」



おずおずと澪から告げられた言葉にピタリと足がとまる。


びっくりして聞き返すと、澪は自虐的に笑う。



「......今頃になってこんな、手のひらを返したようなことを言うなんてひどいですよね。自分でも、わかってるんです。でも......言い訳になってしまうかもしれないですけど、ずっと言いたかったんです。でも、ご主人様たちと他の使用人の目が怖くて、ずっと言えなくて」