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「他のスポーツが『じゃんけん』だとしたら、バレーボールは『にらめっこ』かな?!」

 私がバレーを始めて暫くしたある日、三咲お姉ちゃんと同級生で東洋アローズの環希(たまき)先輩が私に言った言葉。

 笑うと負け、笑わせれば勝ち。落としたら負け、でも点が取れなければ勝ちも来ない。落としさえしなければ負けない反面、落とさせれば勝つ。笑わない我慢と、笑わせる楽しさを併せ持つ……表裏一体なような気もするし、攻守分れた事柄のような気もする、バレーとにらめっこ。


「『じゃんけん』のように勝つために一意専心するのとは画して、相手を負かすよりもまず『我慢』が根底にあるのが『にらめっこ』そしてバレーボールって感じかな?」


 夕陽が目に入る。環希先輩の笑顔がオレンジ色に染まっていた。言葉も優しい暖色を帯びているよう。思い出の中では、その優しさは更に特別となる。それは小学生の時の思い出。
 環希先輩は小学生バレーボール連盟の関東大会にも県代表として早くから出場する東洋アローズの正セッターで、私のバレーの師匠とも言える。

「『setter(セッター)』って、『set upper』と同義でしょ? それはアタッカーにだけするわけではないのよ。自分自身にも一つずつ『set up』していくの。下手くそから始めましょ?!」

 お姉ちゃんたちよりアローズの先輩の環希先輩は私にそう言った。

 メキメキ実力をつける三咲お姉ちゃんと違い、中々上手くならない私。常にお姉ちゃんと比較されている錯覚に陥っていた。
 現在三咲お姉ちゃんと平安学園の同級生の十色(といろ)先輩に、当時は私の下手を厳しく言われたりもした。
 そんなとき、必ず声を掛けてくれるのが環希先輩。


「先輩が言ってること、良く分からない……です。……へへ……」

 スマイルスルー出来ない、譲れないポイント。だからこれは照れ隠しだ。『分からない』ことは恥ずかしい。そんなことないってまだ気づけない小学生の私。

「バレーは涙で負けてはダメ。にらめっこと同じね」
我慢できなかったから(笑って)、負ける?」
「負けて笑うのとは違うよ、負の感情はさらに負けを呼ぶから、ね」

 バレー・卓球・テニス・バドミントンはサッカー・バスケ・野球と違って理屈の上で0対0で試合が終わることがない。
 かつインプレー中のタマ(・・)の静止がない球技で、更にバレーとバドだけがバウンドすら許さない。そしてバレーだけが1回で返さなくても良くて、コンビ以上の意思疎通を必要とする団体戦。

 瞬発力よく全員が協力して、3回のチャンスを活かし相手より得点を重ねると共に自陣を守る。1人が2回連続で触れることができないのだから、必ずチームでのプレーが求められる。
 バレーは助け合わなければならないスポーツである。

「一人のミスはみんなの失点。誰かの得点はみんなのスコアになる」


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 睦美の言葉は、頭でっかちになっていた私に、『私のバレー』の原点を回帰させた。



//////ミニ解説コーナー//////

八千  「昔はリベロなんて無かったよね?」
菜々巳 「リベロ制度が導入されて25年以上、それまで
    は強豪チームに守備専門選手は不要とされてい
    ました」
八千  「何でリベロ制度ができたの?」
菜々巳 「バレーはもともと誰もが『ボールを落とさな
    いよう楽しむスポーツとて生まれました。今まま
    では背の低い人はセッター以外、道がないとさ
    れていたバレーボールで、体格差だけで不利益
    が生じにくいポジションと言えます」
睦美  「背の低い人のための制度なの~?」
菜々巳 「バレーボールのルールが改正され続け、これ
    までサーブ権移動の15点マッチであったのが、
    25点マッチのラリーポイント制となって試合時
    間が短縮されるようになりました」
八千  「その中で試合が一回のアタックで途切れる展
    開の繰り返しにならないよう、バレーの醍醐味
    であるラリーを長く続かせるためにできたのが
    リベロなのよ」
菜々巳 「ラリー制で1回ずつ順番に攻撃が決まってブ
    レイクできないような競技になってしまえば、
    勝つ方が決まってしまいます」
睦美  「そっか~観ても楽しめるようにいるのが~リ
    ベロなんだね~」
菜々巳 「ブロックのオーバーネット(* ネットを越
    えて相手コート空間に入り込むこと)やダブル
    コンタクト(* 1人が二度ボールに触れる反
    則)などの反則の許容されたのもラリーが続く
    よう改定されました。更には以前は『膝より
    下』でボールを触ってはいけなかったのが、サ
    ーブ以外において全身どこでも触れてよいこと
    になったのもプレーの中断を少なくする要因の
    一つかもしれません」
八千  「ラリーが続くとハラハラ盛り上がるよね!」