絶妙なバランスなのは試合の流れだって同じである。怖れていたことが現実化する。1点取って1点取られて、零華が前衛と上がる。
今、24‐21セットカウント。柏手高の最強攻撃ローテのまま逃げ切るしかない! 追い付かれてもう一回こっちがローテを回してしまえば、唯一が後衛へと下がってしまい、流れが変って一気に持っていかれてしまうかもしれない。
もう一度勝ちを引き寄せるにはPTA攻撃! あのあと、この攻撃は出していない。なぜなら不完全だからだ。あれは『1回/10トライ』で、できるかできないかの成功が偶々最初にハマっただけである。
だから今回はミドルブロッカーへの『最速ver.』ではなく『サイドver.』で行くサインを出す。
頷くコートの5人。
女体からのサーブが飛んでくる。
位置に着く、それを見て察する女体側。八千がレシーブでボールを弾く、唯一パイセンが囮で飛んでいる。リードブロックでは追いつけない女体11番MBがゲスブロックで飛ぶ!
私がパンチングで睦美にオープントスを上げると、零華先輩ら2枚の壁が付いて来る。
トスがコントロールできていない! ボールがネットより離れてしまい、スパイクがかぶってしまう(* 身体がボールの真下に入ってしまうこと)。
「睦美っ!」
リカバリーを求めるべく呼びかけるその名。
トスがネットに近ければリバウンドもできるけれど、トスがネットから離れてたり、低いとリバウンドしようとしてもはたかれて落とされてしまう。
何とかしようと空中で睦美が足掻く……。
結果、睦美はどうしようもできず、何とか手に当てて返すのもそこそこで、ボールに囚われ過ぎた睦美はネットに当たってしまい、身体ごとコートに落ちる!
「睦美っ!」
その名は悲痛の呼びかけとなって、駆け寄る!
「大丈夫?!」「しっかりして!」「睦美!」
一瞬、起き上がれない睦美。すかさず監督がタイムを取る。選手交代か? 監督がタイムを取ったということは、できるなら替えたくない、との意思の表れと思われる。
「ごめん! 私のトスが!」
「私のトスが悪かったから……睦美……」
言葉を重ねる私を安心させるべく、そして私の言葉を否定するべく睦美が勢いよく起き上がる。
「セッターが最高のトスを上げたって……わたしが絶対最高のスパイクを打つわけじゃない。バレーの全ての原点はレシーブ。ハチのヘルプがあって、菜々巳のアシストを経て、わたしは得点する。だから最低のトスだってわたしが最高のスパイクを打てなきゃいけない……だから今、失点したんだよ。それもまたチームのモノ。わたしの1点はただ試合の手段でしかないし、この失点だってただのプロセスだ。まだ勝利を分ける決定打じゃないし、菜々巳が誤ったり悔やんだりしてちゃいけない」
最高のトスの判定はスパイカーだけが知る。得点になったから最高のトスだったわけではない。そこにはスパイカーの技術が乗る。間違いないのは、私の最高のトスはレシーバーの最高のパスが貢献している。
睦美は言った。
「相手ブロッカーとの駆け引きは恋愛より複雑かも知れないけど、わたしはいつだって菜々巳に単純で最高の答えを貰ってるよ」
「……これって……菜々巳?!」
「八千……」
信じられない八千が私の名を、驚いた私が八千の名を呼ぶ……これは重症か? 八千と私の目がバッチリ合う。
「ハキハキとしゃべった……?!」
「ハキじゃない、ハチだ!」
「…………」
「うぅ~良いこと言ったのに誉めてくれない~」
あれ?! 治った?
何度でも思う……バレーボールは『助け合うスポーツ』。バレーボールの本質、幾度となく頭での理解ばかりが先立つことを思い知らされる。『バレーボールは勉強よりも難しい』。
スポーツは『理解』ではない、『イメージ』だ。
24‐22
今、24‐21セットカウント。柏手高の最強攻撃ローテのまま逃げ切るしかない! 追い付かれてもう一回こっちがローテを回してしまえば、唯一が後衛へと下がってしまい、流れが変って一気に持っていかれてしまうかもしれない。
もう一度勝ちを引き寄せるにはPTA攻撃! あのあと、この攻撃は出していない。なぜなら不完全だからだ。あれは『1回/10トライ』で、できるかできないかの成功が偶々最初にハマっただけである。
だから今回はミドルブロッカーへの『最速ver.』ではなく『サイドver.』で行くサインを出す。
頷くコートの5人。
女体からのサーブが飛んでくる。
位置に着く、それを見て察する女体側。八千がレシーブでボールを弾く、唯一パイセンが囮で飛んでいる。リードブロックでは追いつけない女体11番MBがゲスブロックで飛ぶ!
私がパンチングで睦美にオープントスを上げると、零華先輩ら2枚の壁が付いて来る。
トスがコントロールできていない! ボールがネットより離れてしまい、スパイクがかぶってしまう(* 身体がボールの真下に入ってしまうこと)。
「睦美っ!」
リカバリーを求めるべく呼びかけるその名。
トスがネットに近ければリバウンドもできるけれど、トスがネットから離れてたり、低いとリバウンドしようとしてもはたかれて落とされてしまう。
何とかしようと空中で睦美が足掻く……。
結果、睦美はどうしようもできず、何とか手に当てて返すのもそこそこで、ボールに囚われ過ぎた睦美はネットに当たってしまい、身体ごとコートに落ちる!
「睦美っ!」
その名は悲痛の呼びかけとなって、駆け寄る!
「大丈夫?!」「しっかりして!」「睦美!」
一瞬、起き上がれない睦美。すかさず監督がタイムを取る。選手交代か? 監督がタイムを取ったということは、できるなら替えたくない、との意思の表れと思われる。
「ごめん! 私のトスが!」
「私のトスが悪かったから……睦美……」
言葉を重ねる私を安心させるべく、そして私の言葉を否定するべく睦美が勢いよく起き上がる。
「セッターが最高のトスを上げたって……わたしが絶対最高のスパイクを打つわけじゃない。バレーの全ての原点はレシーブ。ハチのヘルプがあって、菜々巳のアシストを経て、わたしは得点する。だから最低のトスだってわたしが最高のスパイクを打てなきゃいけない……だから今、失点したんだよ。それもまたチームのモノ。わたしの1点はただ試合の手段でしかないし、この失点だってただのプロセスだ。まだ勝利を分ける決定打じゃないし、菜々巳が誤ったり悔やんだりしてちゃいけない」
最高のトスの判定はスパイカーだけが知る。得点になったから最高のトスだったわけではない。そこにはスパイカーの技術が乗る。間違いないのは、私の最高のトスはレシーバーの最高のパスが貢献している。
睦美は言った。
「相手ブロッカーとの駆け引きは恋愛より複雑かも知れないけど、わたしはいつだって菜々巳に単純で最高の答えを貰ってるよ」
「……これって……菜々巳?!」
「八千……」
信じられない八千が私の名を、驚いた私が八千の名を呼ぶ……これは重症か? 八千と私の目がバッチリ合う。
「ハキハキとしゃべった……?!」
「ハキじゃない、ハチだ!」
「…………」
「うぅ~良いこと言ったのに誉めてくれない~」
あれ?! 治った?
何度でも思う……バレーボールは『助け合うスポーツ』。バレーボールの本質、幾度となく頭での理解ばかりが先立つことを思い知らされる。『バレーボールは勉強よりも難しい』。
スポーツは『理解』ではない、『イメージ』だ。
24‐22