第三セットへ持ち込めば、追いかける側の勢いで優位に戦える!

 菜々巳はここが勝負の剣が峰だと感じる。

『第一セットを取りたい! 王者女体付属に対して一つアドバンテージを得ることの精神的優位を以って第二セットを迎えたい!』
 確か第一セットのとき菜々巳はそう思った。そのときのことを思えば、大分都合のいい考えを浮かべているのは分かっている。

 勉強に精神論はない、と思う……だけれどもスポーツ、身体は気持ちが左右する。脳ミソが答えを出すのではない、身体が結果を示す。ご都合主義のモチベーションアップは潤滑油である。



 私のサーブが続く。女体側はもう一回ローテすれば9番が後衛へと下がる。そして柏手高側はもう一回ローテすれば攻撃力マックスのローテ。
 ……もう一回だけサイドアウトを許せる。しかしそんな気持ちではダメだ。それでもそんな心のゆとりがサーブの思い切り良さを生み出す。
 いつものルーティンで4回床に突く。

 22‐20で9番が下がっても、まだ零華先輩は後衛。今のローテでも睦美と二胡先輩の2本の大砲と唯一パイセンの速射砲が前衛。火力は十分、女体を牽制できる。

 私のサーブはしっかりサーブカットされ、女体の攻撃。ミドルブロッカーの11番がライト側からの攻撃態勢、それもブロードではなく、サイドアタッカーとしての攻撃参加の様相。
 9番セッターが、ミドルなどいろいろな場所でブロックに跳べる運動量と、16番後衛セッターが居るからこそ、逆セッターにならずに自由に動ける体勢。

 惑わされずにブロックが付く。確実なワンタッチが打球を殺す。


「八千! 行くよっ!」
「チャンボ(* チャンスボール)!」


 八千のレシーブがバックセンターに上がる。そこへ走り込むはエース四葉。アタックラインから高く跳ね上がるとツーアタックの態勢。11番がブロックに飛ぶ。タイミングはドシャットにピッタリと合わさっている。
 それを見た四葉はセットフェイント!
ライトを高く舞う睦美へバックアタックからのフェイク&トスが美しく弧を描いて、睦美の手に収まったのも瞬く間、ボールは激しく女体コートを抉った。

 大喝采の柏手サイド。完全に勢いを掴んでいる、何やっても当たる! そんな勢いだ。これで23‐19!



 お互いローテは変わらず。女体がサイドアウトすれば、9番が後衛にいくのは変わらない。でも9番が下がった後、もう一回(・・・・)ローテしたら零華先輩が前衛に上がってくる……。

 さっきは気付かなかったことに今、気付いてしまったのなら、ただ気付いてしまっただけで、私はサーブをネットに掛けてしまう。
 これがメンタルの絶妙なバランス……。

 23‐20。

 顔を上げるんだ! サーブミスがマイナスイメージから生まれたことを悟られてはいけない!