決して『本気を出した零華』が弱い訳ではない。ようやく後衛に下がった零華。それまで実に8もの得点を奪っていった。

 零華を後衛に下げるローテがしんどかった……9番セッターが後衛でセットアップしているローテは基本、11番MBがMBとして機能するから分かりやすい。零華先輩を軸とした、王道バレーと言えるからだ。

 9番セッターが前衛で、零華先輩が後衛に下がると、24番OHが前衛に上がってくる。
 途端にバレーが変わる……。9番のブロックに加え、サイドアタッカーとしての攻撃参加も強烈で、零華先輩の真ん中からのバックアタックだけでなく、9メートルの幅を使った攻撃でバリエーションが増える。24番のライトオープンが、右利きで打つワイドなスパイクとなって柏手高を翻弄する。

 閏月二十四……唯一パイセンを揺さぶれるスパイカーは多くはいない。さすがは零華先輩の対角。


「バビョンッ!」

 打つときの変な声まで零華先輩と対を成す……。


 ローテが回る……。柏手高19‐18女体付属。



 ピッ!

 ここで柏手高校が勝負に出る。何としても先に20点台に乗せたい。リリーフサーバー木村五和。



 私と四葉先輩、そして唯一パイセンでさえも、五和先輩の投入で強張っていた顔の筋力が一休みした気がした。

 四葉先輩は五和先輩のトスを期待してる訳でもなく、きっと2人の仲の良い関係性からくるその存在が、唯一パイセンは姉御肌である五和先輩のチーム内コミュニケーションの軸となる影響力が、私はやはりセッターとしても学年的にも先輩がいる安心感。

 ゾーン1(バックライト)とゾーン6(バックセンター)の間を得意とする、零華のそれを真似しているかのような同じ軌道の五和のサーブ。
 湿った空気に穴を開けて進むボールを迎えるはリベロ。

 零華のサーブを毎日見ているリベロからすれば取れないボールではない、そう思ったのかもしれない……。
 しかし五和のサーブは野球のスライダーのような軌道を描くスライダーサーブ!

 五和は奥の手を残していた。正セッターの座を明け渡した後、必死で磨いたサーブ。狙いはライト側から対角線上に横の変化量の大きいサーブ。零華のそれを意識させることで最大限に欺いてみせた。

 文句なしのサービスエース! 五和と力強いハイタッチを交わし、五和がその存在感でチームに追い風を呼ぶ。

 2本目のサーブ!


「次! バビョらないよ!」

 喝を入れる二十四の声。

 バビョる? 何それ?