喜多田四葉のことは知っていた、プレーも見た。東京に進学する零華、東レアローズのメンバーでもう一度全国へ、そして今度は日本一を手に環希先輩へ報告したい……。
 それは零華の進学でふいになった。だけど零華を責めるつもりはない。これで良かったと思う。仮に零華と唯一が平安学園に進学したのなら、平安学園は全国へ行けるだろう。
 唯一は零華の東京行きを知り、少し肩の荷が下りた気がした。

「私は公立の柏大手高校にしようかな?! 公立高校だけどバレー強いし」
「いいんじゃない? 進学校でバレーが強い、その先の進路が開ける」

「三咲先輩がまたうるさいよ、きっと。『唯一、お前もかっ!』って」
「十色先輩も……あの2人似てるから……ふふっ」

 中学部活も引退した初冬……。部室で顔を合せることも無くなったクラスの違うこの親友とは、それでも一緒に帰ることも多い。
 冷たい風が首の襟元の隙間、スカートの下から入り込んでくる。


「……ごめんね、唯一……」
「……ううん、これで良かったんだよ、菜々ちゃんのためにも、三咲先輩たちのためにも……」
「……唯一……」

 開三咲、高遠十色はバレーに妥協を許さない。遊びなんて言葉は存在しない。それはきっと妹であるからこそであろう、菜々巳にも同じを求める。それは傍から見ても苦しいバレーだ。


「バスケ部の笹山くんも柏手高受験するって言うし……」
「唯一っ! 人が真面目に謝ってるって言うのに?!」

「ひどっ! 零華、私だって真面目だよ?!」
「だって唯一、ちょっと前は同じバスケ部でも、小出くんだったじゃない?」

 喜多田四葉が柏大手高校に行くって噂も聞いていた。後から感じたけど、そのときは零華とスパイクが似ているなんて思ってなかった。
 きっと本能の内にそう思っていたのかも知れない。

(本当は私だって零華とバレー続けたいよ……それが素直な気持ち……)


「素直な気持ちになったら笹山くんだったのよ」
「小出くんの前は野中くん、その前は『しばらく恋よりも食欲』とかいって」

「零華モテるのにどうして彼氏作らないの? もしかして福岡の? まだ?」
「私は唯一みたいに素直に生きてたら、すぐ太るし悩みばかりでバレーなんかやってられないわよ」

「バレー一筋、それも青春よね?!」
「唯一が言うなっ」

 再び風が吹いたのなら、唯一と零華の間を割って入るように吹き抜けた。

「受験、頑張って」
「うん」
「全国大会で」
「全国大会で」