前衛に上がった9番セッター・小山空美がセンターブロックを跳ぶ。小山空美は高さがあって真ん中を止められる。ブロック力がある。
 それはスパイク以上に脅威となった。

 菜々巳が前衛に上がったローテは完全にネットプレーで女体付属に負けている。

「せめてあと二つ! 唯一パイセンが前衛に上がらないと……!!」



 第一セットを取りたい! 王者女体付属に対して一つアドバンテージを得ることの精神的優位を以って第二セットを迎えたい!

 決まり出すと止まらない零華のスパイク! いつまでたっても零華の前衛が終わらない! 点を取られる一方で女体のローテが回らない!

羽衣環希(はごろもたまき)……バレーで私がコンビを組みたいと思ったたった一人のセッター」
「……?!」

 突然の零華の言葉に理解が追い付かない。

 って言うか、そっちは勝ってるから余裕があるでしょうけど、こっちはそれどころじゃない、のに……『環希先輩』の名が出ては無視するわけにはいかない。

「4番のスパイクを活かしきれてない」
「??」

「私のスパイクとどことなく似てる……だからかな?」
「何が言いたいのか分かりませんけど……」

 言葉を返してみたけれど、零華先輩は目を合せようともしない。

『頭良いんだろ?』っとため息交じりの零華先輩が、私の『勘の悪さ』なのか『理解力のなさ』への失望が見て取れて、少し癇に障る。
 私だって、何となく見当着けてますから! 皮肉で当てつけですから! すぐみんな『頭良いくせに』って心得違いを押し付けてくるんだから!

「4番とコミュニケーション取れてないようね……相変わらずの人見知りなの?」
「……ぐぅ……」

 悔しいから『ぐぅ』だけでも出してやったわ、でも……?

「どのスポーツでも大体エースってのは『俺様』思考なのよ……声掛けられるのを待ってるはず」
「でも……」
「少なくともこの2年、一緒に汗を流してきたんでしょう? 遅いなんてことはない、スパイカーはセッターを必ず見てる」

 どこから吹いたのか分からない風が、湿度の高い体育館と私の中の何かを攫った気がした。

「どうして……?」
「バカなセッターなくせして……なぜ、あなたは永訣したはずのトスを思い出させる?!」

 その言葉を最後に、零華は後衛へと下がって行った。