4対4。突き離されるわけにはいかない。今度はこちらがブレイクする番だ。しかし都合よく進むわけもない。4‐5、5‐5……ブレイクできず、風香のサーブ。


 女体付属、選手交代。後衛に下がったMBがサーブを終え、リベロに交代かと思われたが出てきた選手は背番号9・小山空美……。
 それはツーセッター。公式練でみた16番セッターはスパイクも強烈だった、この9番もそうに決まっている、つまりは前衛が常に3枚のアタッカーと言うわけである。



 風香のサーブでスタートする。互いの意地がボールをコートに落とすのを拒む。ラリーが続く。徐々にゲームに入り込んだ9番がアタッカーたちを自在に使い分け始める。

「菜々巳……頭の悪いあたしには良く分かんないけど、これって……」
「菜々巳は~、頭良いでしょ~?! テレビで~見たことあるけど~……」

 ラリー中にもかかわらず八千が大きな独り言のように発する……。それに睦美が同調する。



「そうね……これは『ハイブリット6』……」



 試合直後に感じていた違和感……。何故分からなかったのだろう。バレーは背番号がポジションを表すとは必ずしも決まっていない。
 プロトコール時のラインナップシートで背番号とポジションまでチェックしてなどいない。女体の試合をビデオで見た記憶の中のポジションだけだ。

 思えばS3ローテでスタートした女体のセッター対角にリベロがいた。これはこのときのための布石としか考えられない。
 現代バレーではそれぞれのポジションにはそれぞれに担っている役割がある。それが当たり前となってきた。
 しかし『ハイブリット6』での選手はポジションにこだわらず、流動的に全員がレシーブし、全員がアタックを打ち、さまざまな位置からスパイクを打つ。そのバレーを、『混ぜる、組み合わせる』という意味を持つハイブリッドと称した。『MB1システム(* ミドルブロッカーが1人という意)』を進化させ編み出した『ハイブリッド6』。

 弱点は選手の負担が大きい、以外見当たらない。

 これまで3度のオリンピックでの男女の金メダルは、すべて新戦術で獲得している。
 1964年、東京五輪の女子は『回転レシーブ』、1972年に行なわれたミュンヘン五輪の男子は『時間差攻撃』、1976年、モントリオール五輪の女子は『ひかり攻撃』といった具合に、過去の栄光は、常に新しいバレーとともにあった。



 じわりじわりと点差が開いていく。5‐7、6‐7、6‐8、6‐9……。



 7点目を取る。ここが柏手高の最も強いローテ。ここで追い付きたいが8‐9止まりで一歩及ばず。
 セッター菜々巳が最後の後衛のローテでサイドアウトしたのなら、すぐさまサイドアウトで女体付属が10点目をあげる。

 そして女体付属のハイブリッドたちの勢いが増す。