ボールが数回ネットを往復した。サイドアウトの応酬で始まったこの試合、最初のブレイクが前半戦の流れを掴む、そんな気がした。

 八千、行くよ!

 私たちには隠し玉がある、それは『ワンフレームバレー』。低く速いパス回しでテンポの速い攻撃!
 私は焦っていた……。

 ワンフレームバレーの弱点。攻撃枚数が減る。トスが低くなる。よって高い打点が生まれない。だからコースが限定される。
 ただでさえセッターの菜々巳が前衛のローテ。ブロックに飛んだMB、レシーブしたアタッカーは攻撃モーションが遅れる……それは四葉へのオープントス一択と言えなくもない。

 単純計算すると、ここまでのサイドアウト応酬のシーソーゲームならば、ローテーションは1セットで4周する。(* 実際の試合ではブレイクなどの連続得点など考え、凡そ1セットで14、15回のローテーション)
 6ローテで1周なので、菜々巳が前衛の12ローテはワンフレームバレーは選択しないべきなのかもしれない。



 私は判断を誤った……ラリーの最中、ラリーが続けば続くほど、速い展開のバレーは判断を追い詰める……それは『こちら側』も同じことが言える……この判断ミスを起こさせたのは、状況把握のミス、つまり『認知』の誤りである。
 ラリーの最中に選択した柏手高ワンフレームバレーは、ミスが出ないまでも雑な攻撃となってしまう。


 ブレイク! 均衡が破られた……。ここですかさず柏手高校1回目のタイムアウトを使う。


「スキルやテクニック、フェイントや変化は出しどころが肝心だ。コンビプレーもまた同じだ、忘れるな!」

 監督は直接プレーのスタイルに言及しなかった。それは私への配慮……それに気付いた私は、自分の判断ミスを受け入れ、落ち着かせる。

「あんた、頭良いんでしょ?! セッターにおけるTPOって何だと思う? 『O』は『Occasion』。『Operation』でもいいな。『P』は『Place』より『Position』の方があってるかな。じゃあ『T』はなんだと思う?」
「えっと……やっぱり『time』はあると思う、けど……『tempo』?  『think』とかそれに『throughout』『toward』『transfer』『top』『tele~』……『till』や『to』もあり得るか……」

「あ~もういいもういい……あんた、頭いいんだか、悪いんだか……」
「先輩……答えは?」
「『toss』に決まってるだろ……勝手に難しくするな」

 五和先輩が『もういい、行け』とジェスチャーする。『toss』当たり前に一番大切なこと……。頭の中がスッキリした気がする。

「あたしからすれば勉強なんかよりよっぽどバレーボールの方がシンプルだ」

 八千がニヤリと笑って私のお尻を叩いてコートへと入る。



 続く零華のサーブ。今度は八千がしっかりサーブカット。


 ワンフレームバレーの所以は『カメラのひとつのフレームの範囲内にボールが収まる』という意味。フレームから飛び出すことで、できる選択肢が増える。高いトスで『間』を作り出す。そのコントロールがセッターとしての力量。

 ワンフレーム(=ヴィクトリーメソッド)に拘るな! 『得意に逃げないこと』環希先輩の教えの意味が今、分かる。

 同じオープントスでも四葉の溜が変わる。リバウンドへの備え、ブロックアウトへの対処、スパイクフォローの準備、次のラリーへの心構え。


 しかし百戦錬磨の女体付属。高いオープントスにしっかり3枚のブロックが付く。しかも高い!


 ブロックに対してトスが中に入ったか?



 トスが来た時点で上からブロックに囲まれる、四葉の目にはクロスに抜いてもリベロがいるのが見えた。
 四葉の中にいくつかの選択肢が浮かぶ。ブロックに当てて飛ばす? しかし上から来ているブロックに対して下から打っても、どシャットされてしまう。ブロックアウト? ここからだと外にも出せない。ティップ(* 軟打)? シャット覚悟で勝負?


 四葉が選んだのはリバウンド。ブロックに当たって跳ね返った緩いボールはセカンドチャレンジを生み出す。


 落ち着け、間を作ったおかげで、しっかり攻撃態勢が整えてある。誰を使う? 風香がAクイックに入る。バックセンターの位置には睦美が居る。
 速いトスを上げる!

 パイプ攻撃の決定版、マッハ!