菜々巳 →二胡 →唯一 →睦美 →四葉 →風香のサーブ順となるS1ローテでスタートした柏手高。現在一つ回ってS6ローテのポジション。
 女体付属はS3ローテでのスタートで、現在一つ回ってS2ローテ。

 零華とマッチアップしている睦美には感じているものがある。中学の全国大会、あの負けは『本当は自分のスパイクミスだ』ということを『零華だけは知っている』、それだ。
 何も語らない零華の冷たい瞳は睦美の心を揺さぶる。

 あのときの睦美に上がったトス……スパイクする瞬間、零華の憎悪みたいなものを感じ取った。だからあのときクロス側に思わず目を向けてしまった……そしてストレートの軌道が奥へとズレた……。
 睦美にとってあのときの菜々巳のトスは今日、このコートへと繋がっていた……。その証を零華先輩と同じコートに居る今日、己のスパイクで断ち切らねばならない。

「ナイス睦美!」
「零華先輩、さすがです!」
「いいぞ睦美」
「零華ナイスキ―」


 お互い小細工なしのオープントスで点を取り合う。

 よしっ! 負けてない! 大砲の威力で引かなかった意味は大きい! ファインプレーよ睦美!


 余力を隠していたのは王者だけではない、さっきまで感じていたプレッシャーを跳ね返すには十分すぎる。睦美の気合が、王者に逆王手を掛ける。
 睦美を舐めないでよね!

 しかしここで女体付属のサーブは零華。強烈なスパイクサーブを得意としている。柏手高の良い雰囲気を壊すように、零華の床に叩きつけるボールの音が不気味に響く。

「八千、来るよ!」

 零華のサーブはゾーン1(バックライト)とゾーン6(バックセンター)の間が一番の『ストロングコース』。バックセンターの八千がその守備範囲に集中を張り巡らせる。

ピッ!
「ナイサー!」

 零華のサーブに追い風を送る声援。

「任せてっ!」

 八千が素早くコースに入る。腕が持っていかれそうな重いサーブ! 辛うじて上へと跳ね返した。

「ごめん!」

 レシーブが乱された八千の叫び。ボールの下にもぐれない、アンダーで四葉先輩へと繋ぐしか道はない。

「四葉先輩!」

 斜め後ろからの二段トスを四葉先輩は打ち切る、さすがだ。これが地区予選レベルなら決まったかもしれない。しかしここは全国大会、決勝トーナメント。しかも相手は王者。2枚のブロックを抜けた先には、リベロが。

 ラリーが始まる……。