四葉先輩を舐めんなよ!

 私はパスヒッターである四葉へ短い速攻を繰り出す。

 四葉先輩はサーブカットを上手く上げられなかった雪辱で満ちている。ここはエースのプライド……チームがエースを支える場面。そして四葉先輩も腕を速く振り抜くスパイクは得意だ。後は短く助走を切れるか?!


 ビシィッッッ! 床を叩くというより水面を走る小石のように、ボールは女体コート奥を跳ねた。


 7秒……。


 ワァァァーという歓声に混ざった柏手女子バレー部の歓喜。勝利の条件とした『最初の1点』。その小さな達成に手応えを感じ得ずにはいられない。
 それを尻目に零華先輩は薄く笑う。 私は一瞬で冷めていた。



 今度は柏手高側からのサーブ。

 あれ? 女体のローテを見て何か違和感を覚える。気のせい? ……囚われるな……試合中に別の何かに気を逸らしてベストなパフォーマンスが出せるはずもない、ましてや相手は王者女体付属だ。



 二胡がサーブを打ち込む。それがネットインの形で女体付属陣地へと零れ落ちる。二胡がラッキーを呼ぶ。二胡の、みるからに重そうなボールに対してレシーブ側は踏ん張るつもりだったのを、前へと動かす力へと身体のコントロールを変化させるのは難しいものだ。
 それはレセプションの乱れを呼ぶものに他ならない。

 ここでブレイクできれば王者に対しての気持ちの優位ができる。



 それでもさすが王者、少し短いけれどネット際、見事なサーブカット。16番セッター・神永十六夜が素早くボールの下に身体を滑らせるとトスアップ! そのセッターを飛び越えるくらいの勢いで11番MB・坂田一十美がクイックスパイク!
 ネットインサーブからの返しで『ど真ん中』を使うなんて、予想の上を行くプレー。

『バシィッ!』と音がしたかと思えば、『やられた!』と思ったそれを覆すもう一つ更に上を行く展開。慌てずしっかりついていたキャプテン唯一! 分かってたとばかりにキルブロックが炸裂する!

 あれを叩き落した?! すごい! 流石、唯一パイセン!

 ブレイク、してやったりと確信したのも瞬き一つの間……女体リベロが唯一のキルブロックを拾ってみせた! 

 それ、拾えるの??! 

「!!……スパイクフォロー……」

 八千の目がギラつく。九十九の言葉が蘇る。八千の奥歯がギリギリと軋むのが聞こえて来そうな表情。しかも今度はしっかり高かく上がっている。16番がジャンプトスの構え、そして再び11番が走り込む?!?

 もう一回、センターラインで速攻?! この選択肢はあり得ない。案の定、11番の入りが遅い……この速攻は失敗する。
 高い位置でセッターがボールに触れる瞬間、セッターのオーバーハンドトスは空振りしていた。
 え??! ボールの行方を追っていた全ての選手がそう思っただろう……。そして11番は今、このタイミングで踏み切った!

 ダァーン! ボールは柏手高コートでバウンドすると、静かに転がっていった。11番にラストパスを送ったのは、セッターの下に居たリベロ。
 セッターがスルーしたボールをそのままアンダーハンドパスで11番にラストパスを供給したのだ。