村沢九十九……パイセンからその話を聞いた瞬間、恐らく八千も睦美……はどうでしょうか? 思い浮かんだ彼こそが、いいえ、彼以外考えられない零華先輩の想い人。
 でも何で弱点??


 女子は異性を意識したとき、男勝りな勇ましい姿を隠そうとするものだ……。

『ぱぴょん!』『うりりぃ』『ばっは!』など、時折訳の分からない奇声や発声が零れていまう残念なタイプ。凍てつく美女、零華先輩も八千とは少し違ったバレーで失敗する、損するタイプ①だったのだ。
 思えば私はアローズ時代、中学時代は環希先輩の影とお姉ちゃん、セッターというプレッシャーに怯えてばかりいた。零華先輩も少し近寄り難くて記憶から遠ざけていた。
 試しに零華先輩の奇声について八千と睦美に聞いてみた。

「え?! 零華先輩が奇声?! そんなこと思ったことないよ。気合でしょ、そんなの。普通よ普通」
「ゔ~ぅ?! 零華せんぱ~い?! 何か言ってるぅ~?! わかんな~い」


◆◇◆◇


「菜々巳、ほら、あのイケメンじゃん! ちょっとまた会えるなんて。行ってみよ、ほら睦美も!」

 八千は難しいことなんて考えません……身体の方が先に動く、私は八千を追いかける形で続いた。
 九十九さんは真直ぐと女体のバスを見つめていて、こちらに気付く様子もない。それをいいことに八千がイタズラをしかける。

「だぁ~れだ?」

 後ろから彼の目を塞いで聞いたこともない甘い声を出す。私はスパイクを胸で受け止めたと錯覚するくらい、胸が弾けた。
 この光景を見ているだけで心拍数が上がる。マッチポイントなの? ファイナルアンサー? この気持ちは恥ずかしい? 何なのこの高いところから下を覗いたようなキュっとなる感覚……?!
 私は何故か、バレーボール部員のジャージは膝が破けるのに、私だけお尻が破けていた時の恥ずかしさを思い出した。
 彼は一体なんて答えるのだろう? 期待……。

「恥ずかしかけんやめてくれ」

 そう言って八千の手を取り振り向く。……何か正解……いいえ何やっても正解だったのかも知れません……。

「こんばんは。何やってるんですか?」
「ゔ~当てて欲しかった~」

「……えっと……こんばんは……零華さんば認めるすごかリベロと『優しい零華さん』みたいな人……あぁ思い出したけん、高坂さんと皆藤さん。それと……セッター、開菜々巳、さんでっしゃろ?!」

「おっ?! 覚えててくれました?!」
「ちょっと~嬉しい~」

 あれ? 私、ポジション言ったっけ?

「こんなとこで何してるんですか? 福岡代表だから、こんなとこに泊まってるわけないですよね?!」
「零華先輩~待ってる~?」

「そ、そげんことなかっ。も、もう帰るとこや」

 そそくさと立ち去ろうとする彼を、私は思わず呼び止めた。さすがに夏の日も暮れ、彼の表情を隠すのを影が手伝う。

「あ、ちょっと待ってください」

 九十九さんも……きっと零華先輩のこと好きなんだろうな……。そう思いながら。