この五和のプレーは流れを引き寄せ、『everybody』の勇気となって1セット勝ち取る。そしてそのまま勢いは止まらず、柏大手高校はストレートで勝利する。
五和先輩のあの姿と日下部先輩の声援を背にして、震え立たないセッターが居ないはずがない。
負けは、今まで只の敗者であった。しかし今日の五和先輩を見て、日下部先輩を知って、勝ちが負けよりも律せねばならぬことを知った。次のステージへと背負っていく覚悟のない勝者は、ステップを上がる資格はない。
第2戦のスターティングメンバーはベストメンバーと言えた。晒されてしまった五和の弱点。知られるのにはもう少し時間がかかるであろうと甘かった監督。しかし五和が示した『3年間に懸ける部活動』という特別な環境と、注いだ熱量の重さは、容易くチームから灯を消せるわけがない。
第2戦は圧倒した。これで明日への道が繋がった。それは3回戦、王者東京女子体育大付属高校、月影零華との対戦を意味する。
「いよいよ零華先輩と」
「王者女体」
「ゔ~」
「零華……」
唯一パイセンは私たちよりもノスタルジーなのだと思う。中学時代は仲良かった二人。個の才能に差はなく、チームとしての差で相まみえなかった二人。今や零華は『世代最高のエース』との定評がある。
「私ね、零華の弱点、知ってるんだ」
帰りのバスはみんな良く寝ていた。私は唯一パイセンが言った『零華先輩の弱点』のことを考えてて、暫く外を眺めていたけれど、外の街灯が流れていくスピードが次第に遅くなっていくと、いつの間にか眠ってしまった。バスが宿について起こされる。
向かいのホテルにも『女体付属』のバスが一足先に到着していたようでホテルの前は荷物の受け渡しなどで人だかりだ。
「あっ……」
私はその人混みから少し離れた場所に彼を見つけた……。
「零華先輩の弱点……」
男子は体育館で隣の女子バレー部に自分のカッコいいプレーを見せつけるべくアピールする。なんてバレー部あるある……女子の方は、女子っぽい部分をできるだけ見て欲しいからガッツリ激しくプレーしてるのを隠そうとする。異性への意識は性質を変異させる。
***
中学1年生のとき、女子バレー部は零華と睦美を見る男子生徒たちで騒がしい時期があった。
「おいっ! 零華先輩と睦美目的で見てる奴らは帰れ! 邪魔だっ!」
八千が怒鳴り散らすと、気持ち悪い男子たちは蜘蛛の子を散らすように逃げ去った。しかし一人だけその場にとどまっていた。
八千がヤレヤレとばかりに大きくため息を一つ吐く。
「ハァ……聞こえなかったのか?」
「いえ、ちゃんと聞こえてました」
「じゃあ、さっさと帰りやがれ」
「だって僕は……開さん目当てなので……」
体育館の時が止まったのを覚えている。バレー部全員が私とお姉ちゃんに向けて振り向いたのに驚いて、その男子が私なのか、お姉ちゃんにその言葉と視線を放ったのか分からなかった。
家に帰った後、お姉ちゃんと言い争いになった。
「あの子2―Bの男子らしいわよ」
「ちょっと可愛い顔してたね」
「菜々巳、何? 自分だと思ってんの?」
「お姉ちゃんじゃないと思うな」
「なんでよ?」
「だって……」
『ガサツで口の悪いお姉ちゃんのわけないと思うな』と思ったけど、言うのを止めた。
「自惚れも過ぎると恥ずかしいわよ菜々巳」
「お姉ちゃんだって……」
辛うじてそれだけ言い返してみた。
「開さんって『さん』付けしてるんだから先輩である私しかないでしょ?!」
「中学生にもなったら同級生にだって『さん』付けしたりするけどな……」
◆◇◆◇
しばらくして私はその男子に告白された。手紙で『好きという言葉の意味以上に僕は君が好き』と書いてあった。
言ってる意味が分からなくって、『好き』という言葉の意味を辞書で調べてみた。
『気に入ること・心惹かれること』が凡その意味である。要するに『好き』の比較級・最上級?!
それは『I like you better than like.』とでもいう?
『I like you best.』なのか……私の脳ミソが解答を求めるべく知識としてそう理解させようとする。
それまで彼が体育館を覗いていると、ドキドキが止まらなくて、気になって彼を目で追ってばかりいた。練習も散漫だった。しかし何故でしょう? この手紙をもらったとたん、彼のことが煩わしくなった。
私は彼の告白を丁重に断った。そうしたら彼は『もうここには来ないよ、サヨナラだね』と言ったのなら、『good-by』と告げながら背中で手を上げて去った。
『good-by』なんて本当に言う人、居るんだ?! 私はびっくりした……私は青春の何でもできちゃうパワーを知ることとなり、恋愛よりもバレーボールが好き、一層そう思うようになった。
その彼の顔はもう、思い出せない……。中大兄皇子や徳川家光もベアテ・シロタ・ゴードンだって思い出せるのに……。
***
「零華は引っ越して来る前、片想いしてた人がいて、今でも彼のことをずっと想っているの。それが私の知ってる零華の弱点」
五和先輩のあの姿と日下部先輩の声援を背にして、震え立たないセッターが居ないはずがない。
負けは、今まで只の敗者であった。しかし今日の五和先輩を見て、日下部先輩を知って、勝ちが負けよりも律せねばならぬことを知った。次のステージへと背負っていく覚悟のない勝者は、ステップを上がる資格はない。
第2戦のスターティングメンバーはベストメンバーと言えた。晒されてしまった五和の弱点。知られるのにはもう少し時間がかかるであろうと甘かった監督。しかし五和が示した『3年間に懸ける部活動』という特別な環境と、注いだ熱量の重さは、容易くチームから灯を消せるわけがない。
第2戦は圧倒した。これで明日への道が繋がった。それは3回戦、王者東京女子体育大付属高校、月影零華との対戦を意味する。
「いよいよ零華先輩と」
「王者女体」
「ゔ~」
「零華……」
唯一パイセンは私たちよりもノスタルジーなのだと思う。中学時代は仲良かった二人。個の才能に差はなく、チームとしての差で相まみえなかった二人。今や零華は『世代最高のエース』との定評がある。
「私ね、零華の弱点、知ってるんだ」
帰りのバスはみんな良く寝ていた。私は唯一パイセンが言った『零華先輩の弱点』のことを考えてて、暫く外を眺めていたけれど、外の街灯が流れていくスピードが次第に遅くなっていくと、いつの間にか眠ってしまった。バスが宿について起こされる。
向かいのホテルにも『女体付属』のバスが一足先に到着していたようでホテルの前は荷物の受け渡しなどで人だかりだ。
「あっ……」
私はその人混みから少し離れた場所に彼を見つけた……。
「零華先輩の弱点……」
男子は体育館で隣の女子バレー部に自分のカッコいいプレーを見せつけるべくアピールする。なんてバレー部あるある……女子の方は、女子っぽい部分をできるだけ見て欲しいからガッツリ激しくプレーしてるのを隠そうとする。異性への意識は性質を変異させる。
***
中学1年生のとき、女子バレー部は零華と睦美を見る男子生徒たちで騒がしい時期があった。
「おいっ! 零華先輩と睦美目的で見てる奴らは帰れ! 邪魔だっ!」
八千が怒鳴り散らすと、気持ち悪い男子たちは蜘蛛の子を散らすように逃げ去った。しかし一人だけその場にとどまっていた。
八千がヤレヤレとばかりに大きくため息を一つ吐く。
「ハァ……聞こえなかったのか?」
「いえ、ちゃんと聞こえてました」
「じゃあ、さっさと帰りやがれ」
「だって僕は……開さん目当てなので……」
体育館の時が止まったのを覚えている。バレー部全員が私とお姉ちゃんに向けて振り向いたのに驚いて、その男子が私なのか、お姉ちゃんにその言葉と視線を放ったのか分からなかった。
家に帰った後、お姉ちゃんと言い争いになった。
「あの子2―Bの男子らしいわよ」
「ちょっと可愛い顔してたね」
「菜々巳、何? 自分だと思ってんの?」
「お姉ちゃんじゃないと思うな」
「なんでよ?」
「だって……」
『ガサツで口の悪いお姉ちゃんのわけないと思うな』と思ったけど、言うのを止めた。
「自惚れも過ぎると恥ずかしいわよ菜々巳」
「お姉ちゃんだって……」
辛うじてそれだけ言い返してみた。
「開さんって『さん』付けしてるんだから先輩である私しかないでしょ?!」
「中学生にもなったら同級生にだって『さん』付けしたりするけどな……」
◆◇◆◇
しばらくして私はその男子に告白された。手紙で『好きという言葉の意味以上に僕は君が好き』と書いてあった。
言ってる意味が分からなくって、『好き』という言葉の意味を辞書で調べてみた。
『気に入ること・心惹かれること』が凡その意味である。要するに『好き』の比較級・最上級?!
それは『I like you better than like.』とでもいう?
『I like you best.』なのか……私の脳ミソが解答を求めるべく知識としてそう理解させようとする。
それまで彼が体育館を覗いていると、ドキドキが止まらなくて、気になって彼を目で追ってばかりいた。練習も散漫だった。しかし何故でしょう? この手紙をもらったとたん、彼のことが煩わしくなった。
私は彼の告白を丁重に断った。そうしたら彼は『もうここには来ないよ、サヨナラだね』と言ったのなら、『good-by』と告げながら背中で手を上げて去った。
『good-by』なんて本当に言う人、居るんだ?! 私はびっくりした……私は青春の何でもできちゃうパワーを知ることとなり、恋愛よりもバレーボールが好き、一層そう思うようになった。
その彼の顔はもう、思い出せない……。中大兄皇子や徳川家光もベアテ・シロタ・ゴードンだって思い出せるのに……。
***
「零華は引っ越して来る前、片想いしてた人がいて、今でも彼のことをずっと想っているの。それが私の知ってる零華の弱点」