決勝トーナメント初日。

 一発勝負のトーナメント戦、そしてここからは仕切り直しなど一切なしのノンストップの消耗戦、駒を進める毎に難易度が上がっていく。
 2戦/1日、できるだけ省エネで進むことがアドバンテージを生み出す。ベンチにはどこのチームも選手は12人しか入れない。ベンチメンバーのレベルがレギュラーメンバーに近ければ近いほど監督はカードを切り易く、チーム全体の消耗を押さえられる。

 監督は予選トーナメントで、2分した戦力温存が成功した作戦をそのまま採用。初戦に挑む。


四葉(3年):OH   唯一(3年):MB    二胡(3年):OH      
五和(3年):S   風香(2年):MB   続真紀(つづきまき)(3年):OH 
         〔風和莉(2年):L〕            


唯一(3年):MB 山城理美(やましろさとみ)(3年);OH 睦美(2年):OP
菜々巳(2年):S  四葉(3年):OH   早希(3年):MB
〔八千(2年):L〕


 フル出場の四葉と唯一は、監督からの信頼の証の表れだ。



 全国大会がそんなに甘いものではないのは分かり切ったこと。セッターの癖は見抜かれ、五和が捕まる。それでも歯を食いしばる五和。セッターは自分のトスが読まれることで攻撃が滞ることは屈辱だ。『何とかしなきゃ』と気持ちが逸る。

「クッ! 四葉、頼んだ!」
「ブロック2枚ッ!」

 チームメイトが声でアシストする。それに応えて四葉がブロックの隙間を縫う速いスパイク。

「二胡、お願い!」
「お任せっ!」

 唯一の存在感が両翼を助ける。二胡の大砲のようなスパイクがブロックを粉砕する、さすがの安定感。しかし柏手高の誇る3枚のアタッカーが後衛に下がると、途端に苦しくなる。

 五和の表情が苦痛に歪む。きっとそれは上手くいかないからではない。バレーボールは『everybody for somebody』だ。
 たった3回しかタッチできないボール回しの1回……重要な1回をセッターに託してくれる、ラストボールに繋ぐために。



 アンダーハンドで拾うレシーバ、オーバーハンドでセットするセッター、一番高い場所から打つアタッカー。そしてそのアタックを受け止めるレシーバー……あれ? ここにも『ペンローズの階段』が?



「今このチームの司令塔はあたしなんだ……」

 五和が自分を奮い立たせる。その気持ちがビンビン伝わてくる。

 同じセッター同士。私はベンチから五和先輩にサインを送る。『セッターが前衛の今、Aクイックでプッシュすれば必ず決まる』
 私から五和先輩への初めてのアクション。驚いた五和先輩が私の決意を汲み取る。

 風香がクイックからの狙いすましたプッシュで得点につなげる。五和先輩好みの得点スタイルではないが、この一本は次のセットアップに生きてくる。
 レフトに偏りがちだった攻撃に変化が生まれる。



「五和先輩、ファイトー」

 私は大声で声援する。五和先輩が私を見た。まだまだ五和先輩の心は挫けていない。実際スパイカーの腕は良く振れている。技術的にトスの質が悪い訳ではない。
 セッターの役目は『set up』。それは配置・組み立て・段取り・準備・設定・お膳立て。
 しかしその準備・お膳立てが相手に分かられてしまっていては、スパイカーの力量だけが頼りになってしまう。相手のブロックやレシーブがチームとして機能していれば、スパイカー一人の力ではとても太刀打ちできない。
 監督が立ち上がったそのときだった。