どうやって零華先輩と別れたのかまるで覚えていない……思い返そうとすると出てくるんは、九十九さん……。
 隣を歩く八千に目を向けたのなら、八千の魂も異世界転生している感じだった。八千は『同じリベロ同士頑張ろう』って最後に握手していた右手を大切に左手で守っている。
 睦美は相変わらず何考えているのか読めない。

 ハァー……何だかため息が出る。ところでどうして九十九さんはあそこにいたのかしら? 零華先輩の知り合いですよね、以前零華先輩は福岡に住んでたわけだし……でも零華先輩小学生で引っ越してるのに高校生になっても連絡とってるなんて零華先輩のこと好きなのかしら?

 零華先輩、あの中学全国大会のトス以来、私には極冷だけど、普通にしてれば美人だもの……。



 実際に話した印象は『晴れた空』みたいな人だったな……。


◆◇◆◇


 初日、女子は全52校を13組に分けた予選グループ戦、4校の予選トーナメント。試合に集中できていない私は中学全国大会と同じように周囲の才能たちに助けられ、決勝トーナメントへ。
 私はどこか心が浮ついていた。そう、それは恋……。インターハイは男女で大会日程が少しも被っていないので、周囲に見渡す限りの女・女・女……。女子は男子がいて損する2つのタイプと、力に変えるタイプに分かれる。
 私は男子がいないのに、妄想()に現を抜かして力を発揮できずに終わるという、仲間想いが多いバレー部女子には『大丈夫?』『何かあった?』と沼ってしまう。


 損するタイプ①……八千。

『うおぉりゃー!!』『どっしゃ―!』などの雄叫びは勿論、『髪が耳にかかってんぞ、コンニャロー』
 審判からも注意される程、熱くなることがある。大抵の男子はエキサイト過ぎて引く。


 損するタイプ②……十色・菜々巳。

 男子の目を意識するあまり、力が発揮できない意識過剰のぶりっ子タイプ。……ってちょっと私、ぶりっ子じゃありません!


 そして異性を力に変えられる期待に応えるタイプ……唯一。

 プレッシャーに耐性があり、強いメンタルと責任感、異性の力によって潜在能力を引き出せるミラクルガール。


 そして全く何も感じない睦美……。

 睦美が言ってました。『恋はバレーより難しい』……。もう一方で『恋なんて勉強より全然簡単よ! だって素直になればいいんだもん!』唯一パイセンはそう言ってました。高校で6人目の彼氏であるサッカー部のキャプテン吉竹先輩と付き合ってラブラブのパイセン。勉強<バレー<恋<勉強??

 これじゃ『ペンローズの階段』です。


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 敗者復活戦も終わり、いよいよ決勝トーナメント進出、39校の抽選会が始まる。初日を生き残り、また明日から決勝戦まで3日間に及ぶ熱戦を左右する大事な対戦表。
 その結果、柏大手高校は3回戦、決勝トーナメント2日目で東京女子体育大付属高校と対戦することとなる。
 明後日だけで十分なのに、この帰り道でも文字通り私たちの前に立ちはだかる月影零華先輩……。


「私たちに負けた三咲先輩たち、その三咲先輩たちに負けたあなたたちに、私たちが負けるはずがないわ」

 あれ? 『お姉ちゃんたち(平安)が負けた零華先輩たち(女体)に勝てば、私たち(柏手)がお姉ちゃんたちより強い』じゃなかったっけ?
 柏手<平安<女体<柏手?? 何かここでもペンローズの階段が?