「入浴は20時半までに済ますよう、入れるなら順番にどんどん入るように。夕飯は19時から大広間で。21時に軽くミーテイングして22時就寝。忘れるな」

 宿舎に戻ると唯一パイセンを筆頭に全員、床にバタバタ倒れ込んだ。JKのこの気を抜いた姿たちは、とてもイケメン男子マネージャーなんていなくて良かった、と思うに十分だ。

 八千なんて下着どころか半尻(ハンケツ)出したまま倒れてます。



 それでも緊張のせいか、早くに目が覚める。それは八千も睦美も同じだったのかな? 私が布団から起き上がると、目を擦る2人と目が合った。多分睦美は、いつもの朝練に向かう時間に起きただけですね、その顔は。
 そっと3人、朝の福岡の空気を浴びに外へ出る。

 向かいのホテルの正面入り口に『東京女子体育大付属高校バレーボール部様』と書かれた看板を発見する。他にもどこかで見たり聞いたりしたことがあるような『バレーボール部一行』の看板が並んでいる。
 全国常連校は以前に付き合いのあったホテルがあって、強豪校たち同士は強豪校を引き寄せ合う、敷居の高さみたいのが目に見えずとも存在するのであろうか? 零華先輩に会いたいわけでもないが、気付いてしまったのなら気持ちが止まらない。

 私たちは宿泊客を装ってホテル内に侵入した。私たちの宿を見下ろす形の7階建て……。

「何か~わたしたちより~豪華な気がする~」
「気に入らないわね」
「ホテルで負けても、勝負には勝ちます!」

 言ってて少し悲しくなる。しかしどんな全国常連校であっても、私たちと同じように全国デビューの最初の1回目が必ずあったはず。
 私たちの泊る『とっとーと?』(* 博多弁で予約など『取ってる?』という意味)を私たちの優勝によって強豪校たちの予約で埋まる宿へとバズらせてやりますとも!

 ……にしても中も広い。中庭まである……。良く見えないけれど誰かいますね。


「あ、あれ、零華先輩じゃないですか?」
「行ってみよう!」

 八千の言葉に怯んだのは私と睦美。睦美を怯ませられるのは零華先輩くらいしかいない。私も零華先輩は少し苦手……。好奇心の止まらない八千はズカズカと中庭に入っていく。遠慮ない素行はすぐに零華たちの目に留まる。

「八千……?」

「零華先輩、ちわッス」
「零華先輩~ち~ッス~……」
「零華先輩……と……??」

「なん? 零華さんの後輩しゃんと?」

 私が零華先輩の隣の人に気付いて言葉を止めたのなら、その人が私たちに爽やかに微笑んだ。視線が交差した訳でもないのに私はextraordinary smile(とびきりの笑顔)を放つ。

 バラが?! バラが咲いたわ?!

「はじめまして、こんにちは。俺は村沢九十九(むらさわつくも)って言います。よろしゅう」