福岡まで東京駅から新幹線で約4時間半……新幹線を降りて昼食、バスで一度宿泊所へ。それからスケジュールなどの確認事項をミーティングし、会場へ。16時30からの開会式へと向かう。監督だけ一足早く会場入りしている。

「あー疲れた」
「何で新幹線なの? 飛行機の方が早くて安くないですか?」
「何か~監督が~怖いみたいで~」

 部屋に隅の方へ荷物を下ろす。むき出しのウサギの抱き枕が荷物に腰を掛けるように壁に寄りかかると、部屋とのミスマッチ感が半端ない。

「飛行機が怖いんですか? あの顔で?」
「何か~速いのがダメ見たいで~」
「最初はバスかフェリーにしようとしてたみたいよ」

「フェリー??」
「20時間くらい掛かるから辞めたみたい」
「新幹線も~嫌がってたみたい~」


 疲れてもう、どうでもいいです。帰りもこれなら、負けて新幹線で4時間もかけて『どんより』帰るわけにはいかない。勝って4時間パーティーでもしながら帰ろう! 私たちはそう決意して開会式へと向かった。



 夏の16時なんて暑さも引かない……コンクリート絨毯は日中の日差しを溜め込んだペレット、日陰も期待に応えてくれる程でもない。そんな体育館の入口前で一人の男子学生が直上パスをしている。

 綺麗なフォームだな……セッターかな? 



 選手宣誓、優勝旗返還、高体連の偉い人の宣言など1時間を過ぎる程掛かった。移動疲れの体には中々にシンドイ催しだ。
 睦美は立ったまま寝てます……頭がフラフラ揺れてます。普段の全校集会では180センチの女は目立つけれど、この巨人の林の中では紛れてます、全国大会……恐るべき場所に来たことを再確認しました。八千は……座っちゃってます、さすが。


◆◇◆◇


 あれ? まだやってる……ずっとやってた? まさかね……。


 体育館メイン入り口の側、オーバーハンドパスを続ける男子は一心不乱に真上を見続けていた。
 着いた高校からバラバラに集まってくる開始と違い、一斉に出てくる各校、特に出口付近は解放感で騒がしくなる。

 彼がボールをキャッチした。下ろした顔から汗が流れ落ちる。それを見た私は、開会式の間中、彼が一度も落とさず直上パスをやり続けていたことを確信する。
 ボールを手にした彼がこっちを向いて笑顔で手を上げた。


 ドキッ!


 私の中で大きく弾んだのはバレーボールではない……。思わず一度下を向いて彼の視界から目立たぬよう試みる。しかしそんな必要は初めからあるわけない。恐る恐る視線を戻すと、彼の目は、私の後ろの方にフォーカスされていると分かる。そして彼が『誰』かというのも記憶が教えてくれた。

 振り向いてみる。彼のピントがどこに合わさっていたのか……。大勢の中からそれはすぐに見つけ出すことができた。なぜならそれは絶対(・・)に月影零華先輩であると感じてしまったから。



 そして『彼』はあの『月バレ』でみた、『村沢九十九』その人だ。セッターじゃない、リベロだ……。