全国大会への切符……。その切符を手にする前までに想像していた重さは感じられない。思ったより簡単に手にした、というわけではないのに。
 多分それはきっと、『厨二病』だ。もっとヒリヒリ、ギリギリの瀬戸際感があってこそ……何なら監督の進退が賭かったくらいが丁度いい。お姉ちゃんが全国経験者というのもいただけない。
 そして中学校のときお姉ちゃんや零華先輩たちに一度だけ連れて行ってもらった舞台だから。

 高校インターハイ……環希先輩が見られなかった場所へ……環希先輩のおこぼれレギュラーではなく、今度は勝ち取ったレギュラーとして立つ世界。私よりも相応しいはずの環希先輩が目にしていないステージへと進む恐れ多さと不安……。



「インターハイ、かぁ」
「いざ、全国デビュー」
「ゔ~枕違うと良く寝れない~」

「意外な睦美の生態」
「合宿のときも起きてからしばらく調子悪いですものね」
「全国大会で負けたのを枕のせいにされちゃやるせない、睦美、枕持って行けよ」
「ピンクの枕とウサギの抱き枕~持っていく~」


◆◇◆◇


 8月の全国大会までに残された時間でできることは多くはない。インターハイは毎年開催場所が変わる。今年は北九州大会である。


***


「わわ、見てください、今月の『月バレ』」
「何か、面白いもんでも載ってるの?」

 九州へと向かう新幹線。固焼きのお煎餅を健康そのものの歯でバリボリと砕きながら八千が前の席を回転させる。

「コラ、高坂! 勝手に回転させるな、こっちも一緒に回るの知ってるだろ」
「まぁまぁ……風香もチョコ貰えば?」

 全く悪びれることなく座席ごと振り向いた八千には『月バレ』を、風香にはチョコを渡す。

「んー何々?! 『将来有望な今大会注目の10人(男女別)』……ふむふむ?!」
「零華先輩は勿論、唯一パイセンも載ってます!」
「ホントだ~ 写真~これ決勝戦~? 」

 睦美も身を乗り出して覗き込む。八千から雑誌も奪った風香がチョコの包みを開けながら音読を始める。

「川瀬唯一えっと……今大会トップクラスの高さで、ブロックポイントを量産。月影零華(女体)や春高ベスト4の平安学園、高遠十色・開三咲らと同じ名門・東洋アローズ出身。また開三咲の妹・開菜々巳との速いコンビプレーも注目」
「菜々巳、どさくさに紛れて載ってるじゃん」

「ズルい~」
「何か複雑ですが……」

「他にはえーと、福村柚希(大阪)/2年/身長178㎝/最高到達点298㎝/保倉中/アウトサイドヒッター……なになに……昨年度は1年生ながらエースの一角として云々……」
「井上アンジェリーナ里香、だって! ミドルネーム、何かカッコいい! ストレートへの強烈なスパイクが武器のサウスポーだって」

 八千が強引に割り込んで、雑誌にお煎餅のカスが挟まる。『ん、もう』と風香が雑誌をバサバサと払うと男子ページが開かれた。

「この人、超カッコ良くない?!」

 八千の言葉に全員の視線が注がれた。村沢九十九(むらさわつくも)/祐修高(福岡)/2年/身長173㎝/最高到達点311cm/駿山中/リベロ。春高のリベロ賞、受賞者だ。



 写真の印象は『楽しそうにバレーしている』だ。