トスの()を手首や指先で微妙に調整し、アタッカーが打ちやすいトスを上げるハンドリングの上手さは、先天的なセンスとしか言いようもない。きっと本人に聞いても感覚的な説明しかできないであろう、それほどまでに南野萬里は本物だった。



 しかし主力が抜けた新チームは若手主体で、勢いがある分、流れが悪くなると引きずってしまう傾向にある。それを正すのにはまだ高校1年生の彼女には荷が重かったように思えた。



「マッチポイント!」

 ピンチサーバー・五和先輩のスパイクサーブが放たれる。白帯を掠めるように相手コートに襲い掛かると両の腕で捉え切れなかったボールは、上がることなく横方向へと弾け飛んだ……。
 ゲームセット!


 私たちは勝った! ついに全国への切符を手に入れた! しかし春高で優勝を狙うチームとしては、本当に足りない試合だったなと思う。
 南野萬里にセッターとして劣っている部分を知らしめられた。アタッカーの長所を最大限に活かしたトスを上げること。

 唯一パイセンが平安のミドルに対してコミットする場面があった、そのときにはサイドを上手く活かす早い判断と連携といい、こちらに真ん中が空いてしまうようなシーンが何度かあって、ワンレグ(* 片足で踏み切る移動攻撃)がベストと気付かせるようなトスを上げてみせたり。

 それはベテランセッターが若いアタッカーを育てるようなメッセージ性のあるトス。
 そんな芸当ができるのは過去の偉大な名セッターたちしか私は知らない……。

 どこから出たのか、9本目の矢……。



 勝敗の明暗を分けたのはチームとしての成熟度。『先輩も後輩もない。声を掛け合っていく』唯一パイセンがそう言った真意には『攻撃の組み立てをセッターだけに任せず、あちこちから声を飛ばす』それは『(コート上の)6人の目を使って攻撃を作る』ことである。
 この『6人の目』を最大限に活かしていたのが『環希先輩の耳』だと思う。私は私にしかない武器(セットアップ)を手に入れなければならない。

『受験を落とさなかった』個の力のある先輩たち。しかし『落としたら負け、それをみんな知っている』と続く今でも残されたままの先輩たちが残したメッセージの違和感……チームワークが良いとは言えなかった前チームの先輩たち。
 それを見て学んだ唯一新キャプテンのチーム作りが実を結んだと言える。


◆◇◆◇


 喉を潤す水分と一緒に悔しさを飲み干したのなら、涙の数だけ気落ちを理解し合えるようになり、負けた数だけバレーと重ねた人生を知る。きっと来年は……いいや今年の春高には恐ろしい存在となって私たちの前に立ち塞がるに違いない……南野萬里……。