「ベンチ入りの中にさ、選手以外の人数に監督、コーチ、マネも含まれてるじゃない?」
「そうですね」
「それっておかしくない?」
「どうしてです?」
「だって柏手高(うち)はコーチもマネもいないんだよ? 不公平じゃない?」

 駅までの道はまだ人通りが少なくない。制服を着ている人の数より、そうでない人の方が目に付く。湿った空気にはまだ昼間の熱が残っていて、せっかく着替えて制汗スプレーもしたのに汗が滲む。

 冬が静かで、夏が全てにおいてうるさいのは暑さのせいとしか思えない。暑さに上乗せするように八千が熱く語り出した。私はそれをいなす(・・・)術を知らない。

「その分選手のベンチ入り枠を増やせってことですか?」
「違う違う、女子部にもイケメンマネージャーを付けろ、ってこと」
「はぁ?」
「だって男子部には可愛い可愛い女子マネが居るんだよ?」

 ああ……あの可愛い女子マネ、かなり太ってますけどね……。きっと睦美のスパイクが当たっても倒れない、射的の景品のような女子マネージャー。

 思い浮かべていたらいつものスマイルスルーの生返事しかできなかった。

「あんた今、睦美のスパイクくらいじゃ、あのマネ、びくともしないって思ってたでしょ?」
「……えへっ……」

 いつものスマイルスルーで躱しにかかる。八千……あなたセッターやったら? あなたのその『読み』と『運動能力』があればネット()の向こうのブロッカー(巨人)なんて駆逐できるわよ。

 因みに世界一のリベロと呼ばれているブレンダ・カスティージョは『優れた運動能力』と『読みの良さ』でチームを後ろから支えている。


「それって勝つのに必要です?」
「全国目指しているチームにはマネージャーっているもんじゃない?」

「ハチは~観客がいると~スパイクへの反応速度が上がるんだ~イケメンなら~もっと早いはず~?!」
「ハチじゃない、八千だっ!」
「スパイク到達速度が0.3秒以内だとレシーブするのは難しいと言われる中、イケメンがいればそれすらも……?! やっぱりバレーは数学では証明できないほど難しいですね!」

「あ、いや、菜々巳、ちょっと……」
「八千の昔からの口癖ですもんね、『日本のリベロは世界一でなければならない』って。イケメンが居ればなれるのですね、八千!」