『負け』とはただ一つの結果だ。トライし続ける中のただ一つの失敗(エラー)に過ぎない。そんな結果を集めて、繰り返して、積み重ねたとき、きっと勝敗よりも悔いの残らないプレーヤーだったと思うと信じたい。

 負けて尚、楽しかったと言える至高の極致……私の奥底でどっしりと居座っているのは『にらめっこ』というアンカーワード。
 積み重ねることも、続けることもできなかった環希先輩を想ったのなら、お姉ちゃんのようなバレーをしたくない。


「試合に負けたことは『挫けた』ことじゃないわ。『自分を欺いた』者こそが『挫折』だ」


 負け惜しみを捨て台詞に、その場から駆け出した。


◆◇◆◇


 もうすぐ1年生も終わる。春高が終わってからすぐにインターハイを目指して帆を張った。今のままのやり方で勝ち進めるのか? 変化を欲っする心も恐らく若さだ。


 あの日、環希先輩が壊した7人のバレーへの方向性。そのときに誓った一つ、『打倒・三咲』の目標は高校で果たせないまま終わった。
 環希先輩が私たちに遺したであろうバレーの厳しさと楽しさは、きっと人生と重ね合わせたものだったはず。

『辛いことがあったって、あなたたちはバレー続けてる(生きてる)じゃない?!』

 可能性(みらい)がある……環希先輩はそう言いたかったのだと思う。『可能性は“チャンスの数だけ見込みがある』と言ったのは環希先輩だから。
 いつかきっと『お姉ちゃんを倒せる日が来る』そのチャンスがいつ来てもいいように準備をしよう。

「三咲先輩には~負けちゃったけど~、でも~見返すチャンスは~まだあるし~」
「どういうことです?」
「あー、あれね、睦美は零華先輩がまだ残ってるって言いたいのね」
「そう~。さすがハチぃ~」

「ハチじゃない八千だっつーの!」
「?? どういうことです?」
「だからあたしは、ハチじゃなく……」
「八千、ごめんその話じゃなくて……」
「だから~零華先輩はまだ3年生で~だから~」

 珍しく睦美が瞬発力良く言葉に割って入る。すかさず八千が話の続きを紡ぐ。

「三咲先輩は、平安学園はインターハイでも、春校でも零華先輩の女体付属に負けてる、だから……」
「零華先輩が~引退する前に~わたしたちが~零華先輩を倒せば~」
「あたしたち>零華先輩>三咲先輩 の図式が成り立つってわけさ」

「じゃあ……零華先輩の女体付属と対戦するには全国大会に出なけりゃ、ですね!」
「ま、女体倒すって、それって全国優勝だかんね」
「ゔ~唯一パイセン引退しちゃったら~絶対無理ぃ~」
「って言うか、2人同じ学年なんだからパイセンが引退したら、零華先輩も引退だよ」

 私たちの次の目標が明確化された。いつも通りの日々を過ごす中で、同じ景色が見えている仲間、同じ展望を見据える同士、これほど有難いことはない。彼女らとなら同じコートを一緒に守っていける。smile acceptsな私。
 十色先輩のレシーブエースで勝敗が決したあの試合……バレーが『落とさなかった(我慢できた)方が勝つ』を象徴していた。

 そして環希先輩はこうとも言った。

『バレーボールが人生の全てではない』



 選択のチャンス、捉われた選択肢ではないか? バレーのない人生……それを選択できないのと同じように、勝ち負けに固執し過ぎてはいないだろうか……? 勝敗を分けたのは『諦めない心』? いや私たちは決して『諦めてはいなかった』……では運? 技術? 才能? 努力?

 バレーに全てを懸ける若き心に他の選択肢などあろうはずがない、その思い込みが選択肢を狭めている? 優勝劣敗、負けが否定的でマイナスイメージとなって手持ちのカードを減らし、希望へのアイデアを貧弱にさせてはいないだろうか?
 向上心と達成感、成功と自信はいつだってバレーを楽しんだときに在る、そうだったはずだ。