一度ノリ出した三咲のブロックが収まることを知らない。そしてMBとOHのコンビネーション……MB三咲がCクイックの囮、からのレフト十色のBクイック。そうかと思えば十色が囮のBクイックで、三咲が時間差攻撃としてのセミクイック。
 いくらリードブロックでトスを見てブロックに飛ぶとは言え、少しも全く囮に注意が向かないブロッカーはいない。唯一がキルブロックであればある程その反応速度を上げようと、意識がその可能性を否定させない。

 2セット目を取った平安学園の勢いが止まらない。気が付けば14対19。先に20点台に乗させたくないのはもう、ほぼ不可能に思える。

 四葉は止めただけ闘志を燃やす。元々腕の振りが速いスパイクを打つのにこの試合中、更に鋭さが増した気さえする。だから三咲はターゲットを睦美に絞った。徹底的に睦美をフリーで打たせない。

 私が苦しい顔をしてはいけない……。睦美は『私のトスを決める』ことに拘っている。私が苦しい顔をすれば睦美を追い詰めてしまう。

 睦美の心は挫けていた。バレーが上手ければ仲良くしてくれる仲間がいる。だから睦美は菜々巳のトスを懸命に打った中学時代。高いトスが打てないなんて中学時代にとっくに克服した。それなのに……。



「皆藤はもう挫けたみたいね、バレー嫌いになっちゃったかしら?」
「お姉ちゃん……私聞いてたんだよね……」
「?」

 意識だけはコートから切らせないまま、姉が耳だけ傾けているのが分かる。もちろん私だって試合に気持ちは残している。

「あの日、環希先輩がお姉ちゃんたちに言ってたこと……」
「?!」
「環希先輩言ってた……」

 睦美を真直ぐ見つめる。目に、言葉に、力を込める。

「睦美! 大丈夫。諦めたって良いんだ!」

 八千が、唯一パイセンが、四葉先輩が、睦美が私の言葉に気持ちを傾けているのが分かる。

「挫けたって大丈夫、バレーボールには5人も支えてくれる仲間がいる」
「立ち上がれるまで私たちで支えて見せるから! 焦んなくたっていい」

 八千がすぐに呼応してくれる、心強い仲間だ。

 五和先輩の言葉が過る……私が今睦美に要求するアタックは……。

「睦美、スパイクの気持ち良さって、『打ったときの手の感触』だよね」

 そう、睦美は以前言ってた……例えそのスパイクが八千に拾われようとも、ボールを打ち抜いたときの手の感触が脳ミソまで達する、爽快感。



 バレーボールは勉強より難しい……。



 最高のスパイク+最高のトス<ブロック、かもしれない。

 最高のスパイクと最高のトスをブロックで除してみたら、ブロックは打ち抜いたけれど、割り切れない部分(レシーブ)で決まらない、かもしれない。

 最高のトスとスパイクが揃っても、=得点とは限らないのがバレーボール。しかしまずはどうあれ、ボールの芯を打ち抜く会心の打点、腕をしっかり振る、そんなスパイクを要求しよう。そのためのトスを上げよう、睦美が私のトスを呼んでくれるのなら。

「睦美、またトス呼んでくださいっ! あのときみたいに」



 三咲のソフトブロックで軽く拾われたボールは、平安学園のレフトエースのスパイクとなって返ってくる。
 柏手ブロックの私と唯一パイセンの低い方、その先に網を張って待っていた八千がジャストレシーブを決める。すぐにセットアップへと掛かる私の耳に睦美の言葉が割って入る。

「トス~、欲しい~……」
「!!」

 一瞬睦美の方へ目線を配る。その睦美がサインを送る……その気迫に圧された……。



――マッハ――

 それは全日本女子バレー代表チームが世界の高さに対抗するための秘策、『マッハ』と『ジェット』。これはトスからアタックまでが1秒以内のバックアタック。
 簡単に言えばマッハがAクイックのバックアタック版。ジェットがCクイックのバックアタック版。因みに前衛Aクイックはセットアップからヒットまで0.3秒ほどと言われている。

 私のトスに風となった睦美の身体が通り過ぎていく……クイックの得意な睦美だからこその、ぶっつけ本番の高速バックアタック!