「ディグのとき、ライト側のアンテナ(* コート上か否かを判断するためのポスト)の奥のイケメンが八千のファインレシーブに大拍手を贈ってたのが見えたよ」
「え?! どんなイケメンだった?」
「今日の八千のレシーブが0.09速いのは、あのイケメンのおかげかしら、って思ったけど違うの?」
「んなわけあるかっ!」
(バックトスはボールに触振れる瞬間、目標を目視できない。だからイメージが大切。開菜々巳はコートの映像を瞬時に捉えて、しかもアタッカーのスパイクイメージがスパイカーと同じものを共有できている?!)
アイルトンセナがホームストレートで観客を見分けたように……?!
市民大会での一幕。その言葉を聞いた四葉は、今日初めて試合で組んだ菜々巳のトスに高い評価を付けた。
(皆藤睦美の存在感がライトへのバックトスの精度をより高い処まで引き上げている?!)
(リベロ、高坂八千のレシーブへの信頼感がボール落下点への一歩を早めていて、開菜々巳のセットアップを助けている)
同じく今日初めて本番のトスを打った飛田二胡の感想も高い評価。しかし今日の試合、二胡は不完全燃焼だった。
(そう言えばMBの川瀬先輩もあの子と一緒って言ってたっけ?)
バックトスが得意ではない木村五和。四葉との仲の良さも手伝って、レフトへのオープントスは必勝ラインだ。そして技術力の高いMBへのセンターラインがあれば、トスワークは『強気』の一本道だ。
(高坂と皆藤も同じチームだったって言うし、アイツのトスは仲良しこよしの中坊レベルね)
センター線を使うのはただ単に川瀬先輩が昔からの先輩だから、であって、攻撃の主軸はライト。トス自体は上手いのにレフトへのトスは四葉にも、二胡にも自信の無さがはっきり出てしまっている。
コミュ障?
五和の評価は何とも煮え切らない採点となった。
***
四葉、二胡、五和そして唯一。四人お互いの認知は高校1年より前だった。
川瀬唯一の名は中学全国大会に出場して知れていた。もちろん一気に注目を浴びることとなった月影零華、そのスペシャルコンビの相棒は開三咲であったが。
「行田中出身 喜多田四葉です。 1年C組です。中学ではウイングスパイカーでした」
「1年D組、日下部今日子。大手台東中から来ました。よろしくお願いします」
「1D、木村五和、弥冨中。よろしくお願いしまーす」
「1A飛田二胡です。出身は法西中です。レフト希望です」
「同じく1A、川瀬唯一です。MBやってました」
「1年C組…………」
あれが噂の柏門町かしわもんまち=カシワモチ中の川瀬か……。ちょっとしたザワザワが起こる。
飛田二胡……地区予選で連続得点12点という記録を持つ噂のラッキーガール。
二胡はラッキーの秘訣をこう語っている。
「友達とクリスマスプレゼント交換したんだけどね、私その友達が欲しいものを聞いてたから、少し奮発してそれをプレゼントにしたの。その子も私の欲しいものを知ってたったから、それを貰ったら悪いしな、って」
「でもね私、気付いたの。『私が彼女の欲しいものをプレゼントするのだから、彼女も私に欲しいものを買ってくれてるはず』って言うのは自分都合の妄想だよねって」
「『もし~』に過度な期待しない。だってそれは『思考を曇らせる』から。私は傘を持ってない雨天だって楽む。それがラッキーの秘訣よ」
外的要因に頼る『もし~こうだったらいいなぁ』に期待しない。その代わり条件分岐が自分自身の範囲内であるのならチャンスを掴みに行こう、それが二胡の考え方。
「え? そのときの私がもらったプレゼント? もちろん私が欲しがってたものに決まってるじゃない!」
彼女は軽く言っているが二胡は昔、強豪チームの練習に参加して『レベル的に追い付けていないのが分かって、その場に身を投じなかった』ことがある。そのとき自身の現在地を確認できたからこそ、そのときより先を『もし、~ができるようになったのなら~』というロードマップを描けるようになった。
だから二胡は強豪と呼ばれるこの柏手高校にきた。『できること』を増やすために。『できること』が増えることはラッキーを呼び込む。
それこそが……
飛田二胡、彼女がチームにもたらしたのはラッキーだけではない。
木村五和。木村組という地域ではちょっとした噂のある家柄。癖のない一定のトスを上げる五和。『センター線を使うのは、あくまでもエースのため』そんな言葉がボールにメモられているようなトス。
四葉からは要求は少ない。五和が四葉の望むボール、五和が四葉へ要求するボールを上げ続ける。人に見せない努力をしているのを知ってから、唯一も四葉も信頼を置いている。
喜多田四葉のことは唯一だけが知っていた、そのプレーも。中学地区予選で対戦したことがあるからだ。良いチームだった。それでも四葉のプレーだけがチームで抜きに出ていて、その献身的なプレーが印象的だった。
四葉が柏大手高校に行くって噂に聞いた。東京に行った零華、寂しくないと言ったらウソだ。エースのスパイクを止めるべく役割を持つMBは、偉大な零華に代わるエースを求めた。
「え?! どんなイケメンだった?」
「今日の八千のレシーブが0.09速いのは、あのイケメンのおかげかしら、って思ったけど違うの?」
「んなわけあるかっ!」
(バックトスはボールに触振れる瞬間、目標を目視できない。だからイメージが大切。開菜々巳はコートの映像を瞬時に捉えて、しかもアタッカーのスパイクイメージがスパイカーと同じものを共有できている?!)
アイルトンセナがホームストレートで観客を見分けたように……?!
市民大会での一幕。その言葉を聞いた四葉は、今日初めて試合で組んだ菜々巳のトスに高い評価を付けた。
(皆藤睦美の存在感がライトへのバックトスの精度をより高い処まで引き上げている?!)
(リベロ、高坂八千のレシーブへの信頼感がボール落下点への一歩を早めていて、開菜々巳のセットアップを助けている)
同じく今日初めて本番のトスを打った飛田二胡の感想も高い評価。しかし今日の試合、二胡は不完全燃焼だった。
(そう言えばMBの川瀬先輩もあの子と一緒って言ってたっけ?)
バックトスが得意ではない木村五和。四葉との仲の良さも手伝って、レフトへのオープントスは必勝ラインだ。そして技術力の高いMBへのセンターラインがあれば、トスワークは『強気』の一本道だ。
(高坂と皆藤も同じチームだったって言うし、アイツのトスは仲良しこよしの中坊レベルね)
センター線を使うのはただ単に川瀬先輩が昔からの先輩だから、であって、攻撃の主軸はライト。トス自体は上手いのにレフトへのトスは四葉にも、二胡にも自信の無さがはっきり出てしまっている。
コミュ障?
五和の評価は何とも煮え切らない採点となった。
***
四葉、二胡、五和そして唯一。四人お互いの認知は高校1年より前だった。
川瀬唯一の名は中学全国大会に出場して知れていた。もちろん一気に注目を浴びることとなった月影零華、そのスペシャルコンビの相棒は開三咲であったが。
「行田中出身 喜多田四葉です。 1年C組です。中学ではウイングスパイカーでした」
「1年D組、日下部今日子。大手台東中から来ました。よろしくお願いします」
「1D、木村五和、弥冨中。よろしくお願いしまーす」
「1A飛田二胡です。出身は法西中です。レフト希望です」
「同じく1A、川瀬唯一です。MBやってました」
「1年C組…………」
あれが噂の柏門町かしわもんまち=カシワモチ中の川瀬か……。ちょっとしたザワザワが起こる。
飛田二胡……地区予選で連続得点12点という記録を持つ噂のラッキーガール。
二胡はラッキーの秘訣をこう語っている。
「友達とクリスマスプレゼント交換したんだけどね、私その友達が欲しいものを聞いてたから、少し奮発してそれをプレゼントにしたの。その子も私の欲しいものを知ってたったから、それを貰ったら悪いしな、って」
「でもね私、気付いたの。『私が彼女の欲しいものをプレゼントするのだから、彼女も私に欲しいものを買ってくれてるはず』って言うのは自分都合の妄想だよねって」
「『もし~』に過度な期待しない。だってそれは『思考を曇らせる』から。私は傘を持ってない雨天だって楽む。それがラッキーの秘訣よ」
外的要因に頼る『もし~こうだったらいいなぁ』に期待しない。その代わり条件分岐が自分自身の範囲内であるのならチャンスを掴みに行こう、それが二胡の考え方。
「え? そのときの私がもらったプレゼント? もちろん私が欲しがってたものに決まってるじゃない!」
彼女は軽く言っているが二胡は昔、強豪チームの練習に参加して『レベル的に追い付けていないのが分かって、その場に身を投じなかった』ことがある。そのとき自身の現在地を確認できたからこそ、そのときより先を『もし、~ができるようになったのなら~』というロードマップを描けるようになった。
だから二胡は強豪と呼ばれるこの柏手高校にきた。『できること』を増やすために。『できること』が増えることはラッキーを呼び込む。
それこそが……
飛田二胡、彼女がチームにもたらしたのはラッキーだけではない。
木村五和。木村組という地域ではちょっとした噂のある家柄。癖のない一定のトスを上げる五和。『センター線を使うのは、あくまでもエースのため』そんな言葉がボールにメモられているようなトス。
四葉からは要求は少ない。五和が四葉の望むボール、五和が四葉へ要求するボールを上げ続ける。人に見せない努力をしているのを知ってから、唯一も四葉も信頼を置いている。
喜多田四葉のことは唯一だけが知っていた、そのプレーも。中学地区予選で対戦したことがあるからだ。良いチームだった。それでも四葉のプレーだけがチームで抜きに出ていて、その献身的なプレーが印象的だった。
四葉が柏大手高校に行くって噂に聞いた。東京に行った零華、寂しくないと言ったらウソだ。エースのスパイクを止めるべく役割を持つMBは、偉大な零華に代わるエースを求めた。