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 中学生になったとたん、急に男とか女とかはっきりとした線が引かれた。それは女のせいかもしれない。『誰それがカッコいい』とか『エッチ』とか言葉の力が男子の脳を静かに刺激させ、気持ち的、身体的に恥ずかしさや異性に対するアンテナが敏感に作用したからだろう。

 元々睦美はその手の方面に疎かった。しかし睦美の容姿が周囲を黙らせたままにはさせない。初めて告白されたとき、睦美はその意に反してクラスメートに相談した形となる。

「あの子、皆藤さん。ぶりっ子してエロい素振りで男子をたぶらかしてるんだって」
「なんか、しゃべり方もあざといって感じだもんね」

 睦美が相談した相手は、睦美に告白した男の子のことが好きだったらしく、その嫉妬を買った。
 睦美はクラスで孤立した。更に他のクラスの男子からも告白されて、女子から敵視された。
 それでも不登校にならなかったのは、バレーボール、部活、八千、菜々巳……。


 小学校が違ったが、同中(おなちゅう)になった八千、菜々巳。

「ハチはわたしと話すの~、嫌い~?」
「ハチじゃない、八千だ。別に? 何で?」
「ハチはわたしと~いるの、嫌じゃない~?」
「何で? 睦美、バレー上手いじゃん。ハチじゃない、八千だ」

「ハチは~バレー上手い人が良いの~?」
「ハチじゃない。睦美のスパイク取るの面白いからな! 話し方とバレーって関係あるのか? 八千だ」

 小学生ながらにこれほどクイックを裁ける小学生が居なかったからやっていたMB。
 中学に入ってクラブチームよりレギュラーという地位とポジション争いの激しさが増す部活動。唯一先輩と三咲先輩というMBとしての格の違い。オポジットとの邂逅。

「私さ、睦美にトス、上げたいです」
「菜々巳も~わたしがバレーやってるから~そんな風に言ってくれるの~?」
「はい、睦美のスパイク、凄いです。だから私にトス、上げさせてください」
「ゔ~、分かった~菜々巳ぃわたしにトス上げて~」
「はい、睦美が私のトスを呼んでくれるなら必ず!」


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 あのときからずっと、睦美は私のトスを待っててくれている。私も『ここぞ』というときは睦美に頼ってきた。才能あるスパイカーが私のトスを待っててくれる……。だから私もスパイカーの期待に応えるトスを、お姉ちゃんを振り切れるトスを……睦美に……。