「タイムアウト!」

 柏手高校、監督がタイムアウトを要求する。高校バレーボールにはチャレンジ(* ビデオ判定要求)はない。だからこのタイムアウトはジャッジに対する不服からではない。1回30秒の時間を1セットにつき2回までしか使えない貴重なタイムアウトは、流れを切ることと、セッター菜々巳を落ち着かせるためのインターバルだ。

「菜々、誰と試合している? 相手は三咲先輩でも環希先輩でもなくて平安学園よ!」

 唯一パイセンの優しくも確固たる言葉が渡される。環希先輩……唯一パイセンの言葉で奥底にあった理想のセッター環希先輩への意識が表面化した。現代コンビバレーのセッターとサイド・センターはその要である。環希先輩と組んでいた姉・三咲。どこかで幻影と競っていたのかもしれない……。

「トスからスパイクを早く、スパイカーは速い腕の振りを意識しろ。トスは迷うな、例え真っ向勝負しても、今のメンバーなら負けやしないから安心しろ。勝負する前から負けるな、スパイカーを勝負の舞台まで連れて行くんだ、忘れるな」

 円を組むメンバーたちに監督からの檄が走る。そしてあっという間の30秒が経ち試合は再開する。


 ピッ!

 三度目のサーブが叩き込まれる。エンドライン、風和莉と四葉先輩の間、四葉先輩もレシーブは上手い。迷うところだが、ここは素早く風和莉がレセプションに入り、四葉先輩は攻撃に備える。サーブカットは少し乱されている、私が三度セットアップに入る。

 これ以上離されるわけにはいかない。


 私はバックトスが得意だ。睦美の床を軽く蹴るフットワークの音、自分の立ち位置……ハッキリと距離感が掴めている。睦美がライトに転向してから何度も合わせてきたライトオープン。
 お姉ちゃんがトスを読んでいようが関係ない。睦美のパワーで押しきるまで!

 3枚ブロック! それでも睦美がお構いなしにアタックをぶちかます!


 打ち抜いた!

「ワンタッチ!」

 ブロッカーの叫びも弾け飛ぶ! ボールの勢いはやや衰えたが、ブロックで逸れた軌道は本来、レシーブし難い。しかしアンラッキー……レシーバーの真正面だ。レシーバーが反射的にそれを拾う。

 平安学園、二打目もアンダーでレフトに託す。レフトはエース十色。


「来るよッ!」

 唯一の号令と共に3枚のブロックが揃う。