ライトに睦美。私と睦美の隙間を割るのは唯一パイセンのカッイン。Dクイック、ブロード攻撃だ!

 平安のブロックシフトはリリース。中央に2人残して一人を遊撃隊のように放つ作戦。三咲、達っての陣形である。それは『真ん中は通さない』『決してフリーにもさせない』強い意志の表れ。

 菜々巳のセットアップは攻撃の要、オポジットへの平行トス、速く攻撃力のあるスーパーエース(睦美)への信頼。ここで確実に1点取って追い付く意思の表れかと誰もが感じたバックトス。

 その間を切り裂いて風を巻き起こした唯一のブロード攻撃!



 決まる!



 そう思った矢先のことだった……。三咲のブロックが唯一のスパイクを叩き落す!


 このリリース陣形は三咲のゲスブロック(* guess=推測。相手のスパイカーを予測して飛ぶブロック。個人の力量に委ねられていて、チーム戦術ではない)の信頼の証でもある。


「あんたが『ここぞ』というとき皆藤を頼るのは知ってる。それを逆手に取って私を欺こうとすることぐらい容易に推測できる」

 三咲はわざと聞こえるように呟いたのだろう、菜々巳のトスワークを乱す煽りなのも分かる。それでも私の奥歯を軋しませるには十分だ。プレッシャーが汗を冷やす。

 ブレイク……2点差……。


「ゔぅ~……横取りされた~……」

 睦美が唸っているのが聞こえる。睦美の貪欲さが頼もしい。


 再び平安のサーブから試合が始まる。鋭いサーブ、しかし綺麗なサーブカット。再び菜々巳がセットアップに掛かる。
 どうする? 姉の視線が気なってしまう。レフト? 『ライトが読まれるからレフト』なんて以前にお姉ちゃんに言われたまんまじゃない?! 次こそ睦美に託す? 四葉先輩を含めた4枚のアタッカー。
 平安ブロッカーばかりが気になってトスが散漫になりかねない。

 ツー?!

 黎明戦でみせた、スパイカーに託したいこの場面での意表を突くツーアタック。これなら!

「あんたが考えそうなことだよ」

 三咲の影がネット越しに視界を覆ったように思えた……。

「クッ!!」

 睦美はラフなトスに強い。滞空時間の長い睦美は荒れたトスでもボールを見る余裕がある。そしてそれを叩き落す瞬発力がある。
 ここはッ! 睦美にッ!

 アタックモーションからのバックトス! 睦美がスパイクモーションに入る! しかし……。



 次の瞬間、笛が鳴る……ダブルコンタクト(* ボールに二度触る事)だ。これで3点差……。

 薄く笑った三咲が視界を過る。……迷い、そして駆け引きに負けた心の揺れがボールタッチのミスを招いた。