柏手、四葉先輩のサーブから始まる。対角へとスピードの乗ったサーブだが難なく上げる、さすが全国レベルのレシーブ。Aパスがセッターに返ると、ソッコーの展開か? 平安アタッカーたちの躍動感が判断を迷わす。その中でもレフト十色先輩の存在感がプレッシャーを掛けてくる。

 真ん中、三咲のAクイック! 速い! バレーボール最速の攻撃が刹那に襲いかかる。判断が求められる。



 B? セミ? セッターはどこを見る? 対して唯一パイセン(ブロッカー)は? 

 センター、クイックにも抜かりなく備えるブロッカー。三咲が空中でトスを待つ格好、トスが上がる。それを逃さず見てブロッカーが飛ぶ(リードブロック)。さすがパイセン、クイックは対応早ければドシャットできる。

 コースのサインは出てないようだ。しかしスパイカー(三咲)の大勢はクロスを予感させる。クロス側は二胡先輩と封じる。……睦美の寄せが少し遅いか?


 四葉のサーブが放たれてから凡そ7秒……たったそれだけの時間にこれだけの思惑が乱れ飛ぶ。



 三咲は手首が鎌のように鍛え上げられている。腕の振り、身体の向きを変えずに手首一つでクロスとターンを打ち分けられる。更には手首を返すか、返さないかで強打と軟打の変化さえも可能としている。
 三咲はその将来を最も期待されるミドルブロッカーであるのが頷けるこの能力。


 三咲の選択はターンだ!

「ターン!」

 ベンチの八千と、私の声が同時に上がる。ほぼそれと同じに打ち出されるボールはその声が掻き消える前に襲いかかる。
 風和莉のポジショニングはクロス側に重心が傾いている。三咲の態勢に惑わされたか?
 トータルディフェンスを考えたのなら、クロスを閉めたブロッカーに対して遅れた睦美側のターン側をケアしなければならない。連携の乱れである。風和莉は八千の圧倒的な才能を前に、実戦経験が少ない。それは監督のミスと言えよう。



 精一杯身体を伸ばしたものの、風和莉の身体に当たってライン外へと跳ねるボール。

 ピッ!

 先制点が入る。そして相手サーブ。レシーブから始まるこちらの攻撃は私が落下点に入ったのなら、ネットを挟んだすぐ斜向かい……見えない視線がプレッシャーを感じさせる。
 どこに出してもお姉ちゃんに読まれている気がする……。視界の端の色が濃い。

「菜々! 弱気になるな!」

 再びコートの外、ベンチから八千の檄が飛ぶ! いつも後ろから声とプレーで支えてくれていたことに、その頼もしさを改めて感じ入る。
 きっとお姉ちゃんに見られていると感じている私の笑顔は上手く笑えていなかったことだろう。